子どもがいうことをきかないとき、失敗してしまったとき、ついつい声を荒らげて叱ってしまうことは誰にでもあることではないでしょうか。もっと上手にほめてあげたいけれど、具体的にどんなタイミングでどんな言葉をかけるべきか、日ごろから誰かが教えてくれるわけでもありませんよね。そんな悩めるママ・パパのヒントとなる一冊が、自閉症療育アドバイザーのshizuさんの著書『発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉かけ』(監修:医学博士・平岩幹男さん)です。自閉症と診断された自身のお子さんの子育てに、ABA(応用行動分析)という療育法を使ったshizuさん。イライラせずに子どもと向き合い、親子が笑顔になれるABAを使った言葉かけについて、shizuさんが実践したテクニックを本書から特別に一部抜粋してご紹介します。

 

息子が3歳のとき、言葉が遅く、遊ぼうと話しかけても目を合わせず、反応がないことなどが気になり専門医を訪ねたところ、自閉症と診断されました。診断を受けた当初、「この子とは一生会話ができないのだろうか」と、私は絶望感でいっぱいになりました。「たくさん話しかけてあげましょう」「遊んであげましょう」とアドバイスを受けても、反応がほとんどない息子にどう接していいのか、途方に暮れていたのです。

やがて前を向いて進もうと思い直し、朝から晩までインターネットで情報収集をするようになり、ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析)という一つの療育法にたどり着きました。ABAの考え方を知ることで、子どもと関わる上でのヒントをたくさん得ることができました。そして、日常生活の中で息子の言葉の能力を「ながら的」に楽しく伸ばす方法はないかと考え、生活のあらゆる機会を利用し、ABAを使った働きかけをすることにしたのです。

その結果、息子の言語能力と社会性は飛躍的に伸びていきました。PARS(広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度)という、自閉症の度合いを測るテストでは、9点以上が「自閉症の疑いあり」とされていますが、3歳の頃の息子の点数は25点。それが小学校に上がる前には5点になりました。ABAと出会っていなかったら、ここまでの成長はなかったと思います。

 

ABAではほめることを重視する


子育てで大切なのは、「ほめること」「自信をつけさせること」、その結果として「子どもの笑顔を引き出すこと」ではないでしょうか。その笑顔が見られれば、親自身も幸せなのです。

ところが発達障害を抱える子や育てにくい子どもの場合、叱られることが多く、自信をなくし、自己肯定感が低くなりがちです。

そんな子どもの療育に取り入れたい、ABAを利用した働きかけとはどんなものでしょうか。

①課題を細かく分け(=スモールステップ)、できたらほめ、成功体験を重ねて自己肯定感を高める
たとえば縄跳びを始めると、すぐに軽々跳べるようになる子どもがいる一方で、コツがわからず縄を回すことさえできない子もいます。それに対して親は「そうじゃないでしょ」と怒ったり、「運動神経がないのね」と早々にあきらめる、といった反応をしがち。

一方、ABAでは、まず子どもが何につまずいているかを観察し、課題を細かく分けていきます。縄がうまく回せない子の場合なら、たとえば縄を短く切り、これを片手で回すことから始めます。できたらほめ、次は脇をしめた状態で回せるように……と、目標を小刻みに設定してチャレンジさせます。こうすると子どもはほめられる回数が増えて成功体験が増し、自然と自己肯定感が高まるのです。

②定着させたい行動を、ほめることによって強化する
子どもが食べ終わった食器を流しに運ぶのを手伝ってくれたとき、「ありがとう、ママ助かるわ」とほめると、また手伝ってくれる確率が高まります。この場合、ほめることによって食器を運ぶという行動が強化されるのです。

一方、「乱暴に置かないで」とケチをつけると行動は強化されず、次に手伝ってくれる確率は低くなります。親はついあら探しをしがちですが、ABAでは、ほめることを重視します。それによって望ましい行動が強化され、繰り返すことで定着するという好循環が生まれます。

:平岩さんからひとこと:
発達障害の診断がついたり、「疑いがある」と言われたときには、つい焦ったりイライラしたりして、子どもとの関係性がくずれやすくなりますね。あくまで楽しく、そしてこつこつとできることを増やしましょうね。