筆者も何度もこうしたメールを受け取り、そのたびに「これは手間がかかる割に効果は薄いのでやめた方がよいのでは?」と言ってきましたが、相手は怪訝そうな顔をするばかりなので、ある時から言うのをやめてしまいました(中には筆者のことをセキュリティを軽視する意識の低い人だと批判した人もいました)。このやり方に疑問を感じていた人は多いはずですが、いわゆる同調圧力で諦めていたものと思われます。

11月、衆院予算委員会で答弁する平井卓也デジタル改革担当相。 写真:つのだよしお/アフロ

今回、デジタル庁の発足によって政府の意見募集サイト「デジタル改革アイデアボックス」がスタートし、ここにzipファイルの問題が投稿され、廃止の運びとなりましたが、同じように「皆がやっている」という理由で、問答無用で強制されている習慣はかなり多いのではないかと思います。

こうした問題が浮上すると、「ITのことは分からないから仕方ない」といった意見が必ず出てくるのですが、これは決してITの問題ではないということに気付く必要があります。

筆者はかつて、「zipファイルを使うべきだ」という人に「これはなぜ行っているのですか?」と質問したことがあります。すると、相手は「セキュリティのためです」と答えました。そこで筆者は「セキュリティという横文字の用語を使うと話が難しくなるので、具体的にどんな事態を避けようとして、これを行っているのか教えてください」と問い直しました。相手は露骨に嫌な顔をして「それはセキュリティを強化するためです」と同じことを繰り返すのみでした。

本人は、皆がやっているからやるのが当然であり、疑問を挟むこと自体がよくない行為だと認識しているようで、何のためにそれを実施しているのか、あるいはそれを使わないどのようなことが起こるのかなど、考えたこともないようでした。セキュリティという難しい単語は使っていますが、その意味についてはまるで関心がなく、まさに思考停止という状況だったのです。

ハンコの利用も似たようなものだと思いますが、こうした思考停止を避けるためには、「何のためにそれをやっているの」「どんな事態を危惧しているの?」「それがないと具体的にどんなトラブルが起こるの?」と小学生でも分かる質問を自問自答することです。世の中の大半の問題はごく簡単な言葉で説明できることばかりです。もしこれらの質問に対して、小学生でも分かるような回答が思いつかない場合、その行為に意味はなく、思考停止に陥っている可能性が高いと考えるべきでしょう。

実はこうした思考停止による無駄なビジネス慣習は日本の生産性を引き下げる大きな要因になっており、私たちの賃金が低く推移していることにも深く関係するテーマです。子どものように常に「なぜ」「何」と問いかけることが重要でしょう。

関連記事
教育格差は「仕方ない」という人が高所得層ほど多いワケ>>

「名刺の出し方」も大学で教えるべき?日本で若い即戦力が育たないワケ>>

「テレワーク移行で郊外へ引っ越し」はもう少し待ったほうがいい理由>>

前回記事「2021年経済予測。今の「国内消費2割減」が来年も続いた場合の影響は」はこちら>>

 
  • 1
  • 2