表現をするときに批判を恐れてはいけない


――LGBTQへの社会的関心が高まる今、レズビアンカップルを主人公とした『The PROM』を日本で上演することの意義を、岸谷さんはどのように感じていますか。

岸谷 歌があって踊りがあってエンターテインメントとして最高なのはもちろん、やっぱり内容が素晴らしいんですね。

この『The PROM』という作品は、それぞれがそれぞれをアクセプト(受容)しようというのがひとつの大きなテーマ。レズビアンの女子高生たちを、自分たちのイメージアップの材料として利用しようと悪巧みをするブロードウェイ俳優たちが、彼女たちと関わっていく中で、その純粋さに感化されていくお話なんです。

僕はブロードウェイでこの作品を観たとき、絶対にこれは日本で上演するべきだと思いました。泣いちゃうシーンもありますが、性の多様性という題材をポジティブに表現している。そこに今この時代にやる意義を感じています。

――以前、岸谷さんが日本版の演出協力・上演台本を手がけられた『キンキーブーツ』を拝見したときに心の底から感動して。あの作品も人によってはセンシティブなテーマを、どこまでもパワフルに、そしてコミカルに伝えてくれました。あのとき、エンターテインメントの力を改めて思い知ったんですよね。

岸谷 ありがとうございます。この『The PROM』も観終わった後に元気が出る作品。ハイスクールのレズビアンも、取り巻く大人たちもみんなが一歩成長する物語だと思います。

――一方で、こうした題材を扱うとき、不特定多数の方が観るわけで。中には自分が意図しないかたちで伝わって、他者を傷つけたり批判を生む可能性もあります。そこに危機感や恐怖を抱くこともありますか。

岸谷 本当におっしゃる通りで。繊細なところがいっぱいあって、それぞれのイデオロギーが違うことを認識したうえでつくっていかなきゃいけないと思っています。

――この表現は他者を嘲笑しているように見えないか、という話し合いをすることもありますか。

岸谷 あります。なので、『The PROM』で言えば、必ずLGBTQの人に作品を読んでもらって意見をもらうようにしました。やっぱり当事者の方に見てもらうことで、そうかこれはこういうふうにとられるのかという発見があるんですよ。

岸谷五朗が語る、エンタメがLGBTQを扱う意義と難しさ「作品で伝えたいことを見失っちゃいけない」_img0

 

――そのとき、岸谷さんの表現したいものと、当事者の方の意見がズレたときはどうしますか。

岸谷 まずは話し合いをしますが、作品づくりに関する最終的なジャッジは僕がします。

何かをつくるとき、批判を怖がってはいけない。ちゃんと気を遣う反面、極力表現は抑えない方がいいんです。わかりやすく言うと、下手にオブラートに包むことで、余計に人を傷つける場合もあるわけだから。

こういう表現をしているけれど、ちゃんと観てくれる人にはわかってもらえる。そう信じないと、いい作品はつくれない。配慮するところは配慮しながら、だけど作品の持つエナジーを削ぎ落とさず、きちんと棘を持って表現していくことが大切なんです。

――そのバランスが本当に難しいだろうなと思います。

岸谷 この『The PROM』もブロードウェイ版の台本なんて卑猥な言葉が平気で出てくるんです。その中には聞く人によっては悪口に受け取られかねない表現もある。だけど、それが悪口にならず、笑いになっているのは、お客さんとの間でちゃんと根底の理解が通じているからなんですよね。

だけど、Netflixの映画版ではそうした部分がカットになっているところもあります。それはより不特定多数の方が観るからだろうし、演劇のように生の空気を一緒に共有しながら進んでいくものとは違うからだと思うんですけど。そういうのを観ていると、当たり前ですけど、今はどの表現者もいろいろ考えているんだろうなと感じますね。

――岸谷さんだったら、そういった悪口にとられかねない笑いの表現をどう扱いますか。

岸谷 使いようによってはありだと思います。たとえば、レズビアンのことを「レズ」と呼ぶと、侮蔑的に捉えられる可能性があるんですね。でも、お話の流れでその必然性があって、観客もレズビアンの人も納得するのであれば、「レズ」と呼んだ方がいい。

日本語でもあるじゃないですか。悪口が実は褒めているようなことは。

――大阪人の言う「アホ」みたいなことですね。

岸谷 そう。そこに愛情があるなら、その言葉を使ってもいいんじゃないかと。劇中に「バケツいっぱいあふれるほどゲイなんだ」という台詞があるんですけど、ブロードウェイではこの台詞の瞬間、ゲイの人たちが大喜びしていたんですよ。でもこれもこの言葉だけ切り取れば、悪口にもなる。

大事なのは、一部だけを切り取ってどうこうじゃなくて、ちゃんと全体を見て、その作品が何を伝えたいのかだから。そこをつくり手も受け手も見失っちゃいけない気がします。

岸谷五朗が語る、エンタメがLGBTQを扱う意義と難しさ「作品で伝えたいことを見失っちゃいけない」_img1

 

岸谷五朗
1964年9月27日生まれ。東京都出身。1983年、劇団スーパー・エキセントリック・シアターに入団。1994年、退団。同年、寺脇康文と共に演劇ユニット・地球ゴージャスを結成。定期公演を重ねている。舞台のみならず、映像作品でも活躍し、『この愛に生きて』『妹よ』『恋人よ』『みにくいアヒルの子』などヒット作多数。近作に『天 天和通りの快男児』、大河ドラマ『青天を衝け』など。

 

<公演情報>
Daiwa House Special Broadway Musical「The PROM」Produced by 地球ゴージャス

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東京公演:3月10日(水)~4月13日(火)@TBS赤坂ACTシアター
大阪公演:5月9日(日)~5月16日(日)@フェスティバルホール
脚本:ボブ・マーティン チャド・ベゲリン
音楽:マシュー・スクラー
作詞:チャド・ベゲリン
日本版脚本・訳詞・演出:岸谷五朗
キャスト:葵わかな 三吉彩花
大黒摩季・草刈民代・保坂知寿(東京公演のみ)<トリプルキャスト>
霧矢大夢
佐賀龍彦(LE VELVETS)・TAKE(Skoop On Somebody)<ダブルキャスト>
岸谷五朗 寺脇康文ほか


撮影/赤松洋太
ヘアメイク/永瀬多壱(VANITES)
スタイリング/中川原寛(CaNN)
取材・文/横川良明
構成/山崎恵

 

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