悪声だと思っていた声が、道を開いてくれた

 

今でこそ引く手数多の津田さんですが、20代の頃はなかなか役者一本では生計を立てられず、苦労をしたと言います。

 

「お金がないこともしんどいんですけど、実はそれはそんなに大した問題でもなくて。それよりも辛かったのは、自分が何者でもないということ。表現の道を志し、一生懸命やっているつもりなのに、表現する場自体がない。誰にも何も届けられない。世の中の誰一人として役者としての自分を必要としていないんだという事実がなかなかハードで、どん底を感じる瞬間が何度もありました」

道が開けたのは30代に差しかかる頃から。『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』で海馬瀬人、『テニスの王子様』で乾貞治と人気アニメの主要キャストに抜擢。声優として人気と知名度を高め、現在へと至ります。ただ、意外なことに自身の声についてはこんな言葉が。

「ずっと悪声だと思っていたんですよね。いろんな声が混じっている中でも、自分の声がすぐわかる。いい声とは違う、変な声だと思っていたので、その特徴を面白がっていただけたことが意外でしたし、だったらもっとこの声を使って面白く表現できたらとは今でもよく考えます」

 

声帯も加齢によって変化するもの。声を本職とする人にとっては、避けては通れない問題です。ですが、それさえも津田さんは表現に活かそうと考えています。

「昔、蜷川幸雄さんの舞台に立たせていただいたとき、『イギリスの若い役者はとにかく早く年をとりたいと考えている』という話を聞いたんです。30になったらハムレットができるようになる、40を越えたらマクベスができるようになる。それが、イギリスの役者にとってはカッコいいし、名誉なことなんだと。

でも日本は逆ですよね。日本は年をとることにネガティブな印象があって、役が狭まることを恐れる人も多い。僕はそれはすごくナンセンスだと思っていて。その年齢でしか演じられない役がある。だから、その時々の自分を思い切り楽しみたい。

たとえばさすがにもう今の僕が少年の役を演じるのは難しいし、80歳のおじいさんの役はやれるかもしれないけど、実際に80歳の役者さんがやられるのとでは深みが全然違う。そう考えたら、この年にしかできないことっていっぱいあるなと。年をとるのを恐れるのではなく、今できることのすべてをやろうって考えていますね」