妊娠しているときにがんが見つかったら?
→妊娠しながらの治療は可能。ただしホルモン療法はできません。
患者さんの妊娠周期にもよりますが、抗がん剤治療を行いながら妊娠を継続することはできます。いっぽう、妊娠中の患者さんにホルモン療法を行うことはできません。というのは、ホルモン療法に使用する治療薬は「催奇形性(さいきけいせい)」といって、胎児に奇形が起こる危険性が高くなることがわかっているからです。そのため、妊娠中はホルモン療法を一旦中断し、出産後に再開するという形になります。
赤ちゃんの臓器ができる器官形成期を超えた妊婦さんでは、妊娠をしたまま抗がん剤治療を行い、出産を終えてから手術をしたり、手術してから出産するといった、少々トリッキーな事例もあるにはあります。
乳がん治療中に出産した、20代女性の話
私が担当した患者さんで、20代半ばで乳がん手術と抗がん剤治療、さらにホルモン治療も行っている最中に妊娠した方がいました。その方は、妊娠がわかる前からホルモン治療は自分でやめていました。その後、元気な赤ちゃんを無事に出産することができたんです。もちろん、治療を中断するリスクについては、本人をはじめ、ご家族も十分に理解した上での決断でした。
その患者さんは出産後、しばらくは落ち着いていたのですが、結局がんが再発してしまい、お子さんが小学校にあがる前に亡くなられました。今は、亡くなった患者さんのご両親と旦那さんでそのお子さんを育てているそうです。
乳がんは一度発症すると、5年、10年と長く経過を見ていくことになります。ですから私だけでなくどの先生にも、忘れられない患者さんのエピソードがあるのではないかと思います。
乳がんは、基本的には10年を経過すれば、再発する可能性はとても低いと言われています。そのため、大きな病院では10年で“卒業”とする場合が多いですね。ただそれでも、がんの芽がまた出てくる人、再発する人はいますから、私個人としては、10年を経過した後も同じドクターにかかることが、患者さんにとってはいいことだと思っています。だから患者さんには、「私の場合は卒業はなしですよ」とお伝えしています。一番長い方だと20年間ほど担当していますね。10年経過後は1年に1回の診察ですが、1年ごとに問題がないと確認できることは、医師としてもとても嬉しいものです。
取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵
【全10回】
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第2回「おっぱいチクチクは乳がん?乳腺症?乳腺専門医が教える乳がんセルフチェック法」>>
第3回「マンモグラフィとエコー、片方じゃダメな理由と病院選びのポイント【乳がん検診】」>>
第4回「乳がんの再発・転移の確率は?乳腺専門医への取材でわかった、治療の最新事情」>>
第5回「今や「11人に1人」の時代に。乳がんが日本で増え続けるワケ」>>
第6回「アンジーが選択した「予防切除」とは?「乳がんは遺伝するのか」という疑問に医師が回答」>>
第7回「女性ホルモンが「がんを育てる」⁈乳がんと更年期の意外な関係性とは」>>
第8回「男性も「乳がん」になることがあるって本当?日本人に多い「高濃度乳腺」とは」>>
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緒方晴樹 Haruki Ogata
目白乳腺クリニック院長。日本乳癌学会乳腺専門医・指導医。20年以上にわたり乳腺外科を専門とする。東京逓信病院では乳腺センター立ち上げに尽力、センター長として多くの乳がん患者の治療にあたった。2019年2月、女性が気軽に受診できる「乳がん検診・治療・フォローアップ専門クリニック」として、目白乳腺クリニックを開院。