皆さんは「家族」と聞くとどんな情景を思い浮かべますか? 個人差はあると思いますが、お父さん、お母さんという異性同士の両親がいて、お母さんのお腹から生まれた子どもがいる、というのがスタンダードなイメージではないでしょうか。でも、世の中には母子家庭、父子家庭、養子など、そのスタンダードに当てはまらない人もいっぱいいます。にもかかわらず、「家族=父母+実子」となってしまうのはなぜでしょう?

「家族法」の専門家で大学で教鞭を執る傍ら、情報番組のコメンテーターとしても活躍する山口真由さんは、ハーバード・ロースクール留学時の体験を交えながら書いた『「ふつうの家族」にさようなら』において、「ふつう」とされる家族のあり方に疑問を投げかけています。

かつては血のつながりだけで捉えられていた「家族」。性の多様性が認められ、パートナーシップの多様化が進む現在の日本において、「ふつう」の線引きはどこにあるのでしょう。そもそもこの複雑な問題に対して答えは出るのでしょうか?

今回は、山口さんの考察をご紹介しつつ、身近でありながらも実はとらえどころのない「家族」の本質を探っていきたいと思います。

 


「ふつう」という価値観によって不幸になる人もいる


アメリカで精子提供を受けてシングルマザーになった女性にインタビューした山口さんは、自分や子どもの境遇を「ふつうじゃない」と表現した彼女に衝撃を受けます。

 

「絵本や歌、童話におままごと、世の中は『これが“ふつう”だ!』というメッセージにあふれる。そして、その“ふつう”の範疇に入れなかった人たちは、苦しめられ、追い詰められ、社会からはじき出されるようにできている。一人親であることそれ自体が、本当に子どもにとって不幸なのだろうか? 『父と母がそろっている“ふつう”の家庭が、子どもにとっては最良である』という社会の価値観が、一人親の子どもを不幸にするのかもしれないと、そのとき私は思ったのだ」

「サザエさん」みたいな三世代家族。「ドラえもん」ののび太家のような東京で一軒家を持つ家族。自分の頭の中にあった「ふつうの家族」は、今どきの「ふつう」ではないかもしれないと、山口さんはさらに疑問を深めていきます。

「今の時代の『ふつうの家族』ってなんなんだろう? 私にはますますわからなくなる。そして、こうも思うのだ。『ふつうであることなんて、あきらめてしまえばいい』と。こうじゃなきゃいけないという家族像にさようならをすれば、心がどれだけ軽やかになるだろう」