自分が「おいしい!幸せ!」って思えれば、
よその人なんかどうだっていい

 

お話を聞いていてジワジワと感じ始めるのは、美味しいものを作り、さらに美味しいものを作ってもらうには、家族みんなで「ベロ」を鍛えることが必要なんじゃないか、ということです。大枚はたいて「ロマネコンティ的なもの」を食べたり飲んだりしたほうがいいんでしょうかーー恐る恐るそう尋ねると、レミさんは「あははは」と笑い、こんなお話をしてくれました。

 

レミさん:随分昔、誰もが知ってるある有名な人が家に来た時のこと。八十八夜の季節で、いい新茶があったのよ。温めのお湯で入れたら、舌の上でとろんと玉みたいになって、飲み込むのがもったいないような美味しいお茶。「喜んでもらえる!飲ませてあげよう!」と思って出したんだけど、その人は何も言ってくれなかった。で、また別の時に同じ人が来た時、ちょっと忙しくて、「めんどくさいな」と思って出がらしのお茶を出しちゃったわけ。そうしたらわざわざ私のところまでやってきて「レミちゃんレミちゃん、今日のお茶は美味しいねえ~!」って(笑)。でも、それでいいの。自分が「おいしい!幸せ!」って思えれば、よその人なんかどうだっていい。人のベロじゃなくて、自分のベロを信じてやってみること!

改めて思うのは、やっぱり「レミさんがいる家庭は楽しいだろうなあ」ってこと。冒頭のロマネコンティのお話にも、実は最高のオチがあります。

レミさん:あの後にね、和田さんが「ここに置いといたワインがないんだよね」って探してる時があったの。「庭師の人にあげちゃった」って言ったら、それもロマネコンティだったのよ!(笑)。和田さんはぜんぜん怒らなかったけどね。「レミも庭師の人も幸せだよね、お互い価値もわからず、ハウスワインぐらいにしか思ってなくて。俺だけが悲しいんだよね」って(笑)。

<プロフィール>
平野レミ(ひらの・れみ)


料理愛好家、シャンソン歌手。主婦として料理を作り続けた経験を生かし、NHK「平野レミの早わざレシピ」などテレビ、雑誌を通じて数々のアイデア料理を発信。著書多数。Twitter(@Remi_Hirano)でも活躍中。

 

『家族の味』
著/平野レミ、絵/和田誠(ポプラ社)¥1540

結婚は、わたしの料理の腕を上げました。
子どもが生まれたことは、食べ物を真剣に考える糸口になりました――
平野レミさんがはじめて料理を作った思い出から、和田誠さんとのなれそめや子育て方針まで、家族と料理への愛情がぎゅっと詰まったエッセイ集。29品のオリジナルレシピに加え、夫・和田誠さんとの対談、阿川佐和子さん、清水ミチコさんとの鼎談も収録。


イラスト/和田誠
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)