映画『明日の食卓』を試写で観賞させてもらいました。椰月美智子氏の同名小説が原作で、専業主婦、共働き、シングルマザーと環境が異なる3人の母親が、同じ「石橋ユウ」という名前の同じ年齢の男の子を育てているという設定のお話。
私も似たような年齢の男の子の母で、昔から菅野美穂さんは大好きでお母さんになってからますます応援する気持ちでしたし、尾野真千子さんも注目していて出てくる映画を何本か観てきていたので、楽しみに拝見しました。
このお二人の設定(特に菅野美穂さんはフリーのライターとして仕事をしはじめる役だったので)と鬼気迫る演技には共感の嵐で、劇中の夫にイライラしたり、子供の態度に頭を抱えたり……見ているのが途中でしんどくなるほどでした。
子供への揺らぎない愛情があるのに、ときに狂気と紙一重になってしまう。こうした母親の心情を巧みに描いていると思うのですが、それは母親の性格や状況だけではなく、夫の振る舞いや子供の性質にかなり振り回されるという点もリアルでした。
一方で、終始心を打ち、観終わった後も余韻を感じさせたのは、高畑充希さんの演じる「加奈」でした。加奈の息子の勇くんは母親想いのいい子で、加奈も若くして母親になり子どものことを一番に想いながら働くオカン。この二人には何の非もないのに、次第に追い込まれていきます。
加奈の身にふりかかることは、非正規雇用、シングルマザーの置かれた社会的世相を反映していると思います。そして、映画を観終わって、加奈の話は、母親の逞しさとハートウォーミングな話で終わらせてはいけない、とも感じました。
おりしも、以前取材がしたことがあるNPO法人キッズドアが、「コロナで店の営業自粛や閉鎖等が非正規で働くシングルマザーの収入に直結し、本当に冷蔵庫が空っぽということがある。休校やGW中は給食もないので母親は我慢して子供に何とか食べさせるがそれも足りていない、夏休みそんな親子がいる横で五輪をするのか」という発信をしており、私も微力ながら毎月寄付をすることにしたところでした。
本来は寄付ではなく、行政が動くべきところですが、それを待っていたら今も夏休みも「加奈と勇くん」のように困窮する家庭が出てくる。今必要な支援のために、映画を観て、問題意識を抱いた方は、こうした家庭を支援するための団体を調べてできることをするというのも1つではないでしょうか。
前回記事「資本主義を問う声は未来への希望となるか。「脱成長コミュニズム」が示す答えとは」はこちら>>
関連記事
母子の生々しい痛み……役者の演技に圧倒された『MOTHER マザー』【米倉涼子の新作映画レビュー】>>
小島慶子さん等がシングルマザー支援へ。母親が助けを求められない「理由」とは>>
「バイトすら受からない」40代シングルマザーに必要な、職探し“3つの視点”とは>>
7人に1人の子どもが貧困の日本。「貧乏は自己責任?」を考える児童書が注目を集める>>
「これ、おかしくない?」新生活での理不尽に意見することの意義>>
Comment