「炎上」というワードが、ネット上で当たり前に使われるようになって久しいですが、この作品での「炎上」は2つの意味を持っています。1つは、自宅が物理的に燃えてしまったという意味の「炎上」。もう1つは、ある人物の行動に批判が集まり、謝罪にまで追い込まれるという、まさにネットで見かける意味での「炎上」です。

燃えさかる自宅の前で、父に土下座をして謝る母の記憶から始まる『御手洗家、炎上する』。その8巻が6月11日に発売されました。

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『御手洗家、炎上する』(1) (Kissコミックス)

本作の主人公、家事代行をしている山内しずかは、ある日、御手洗家の妻から仕事を受け、訪問します。御手洗家というのは、代々内科医を経営しており、近所では有名な病院の一家です。

 

その家の妻・真希子は、主婦読者モデルとして、大きな家で悠々自適に暮らす華やかなライフスタイルを世間に公開しています。上品な雰囲気で、他の主婦たちからチヤホヤされても謙遜する姿は、感じの良い奥さまに見えるのですが⋯⋯ 。

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しずかが「家事代行で来ました」と訪問すると、家事代行を頼んだなんて周りに知られたくないから大きな声で言わないで、と険しい顔をする真希子。彼女のオーダーは自宅1階の掃除。

「とにかく生活感をなくしてほしいの」。見た目だけじゃなく、家のこともしっかりできる主婦であることを明日の自宅取材で印象づけたいからなのだとか。

そして、家事代行を頼んで、家を出る時のこの一言と目つき⋯⋯ 世間に見せている顔とは違う、裏の顔がありそうです。

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でも、裏に何かを隠していそうなのは真希子だけではなかったのです。

しずかには、この御手洗家での契約をどうしても取らないといけない理由がありました。「塵ひとつないモデルルームくらいに」綺麗にしてほしいという真希子のオーダーに応えるため、必死に掃除をする彼女は、ソファの下に落ちていたあるものを見つけます。

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それは、御手洗家と彼女のつながりを示すものでした。彼女は、以前は御手洗家の娘であり、御手洗杏子という名だったのです。「山内しずか」は偽名で、現在の名前は村田杏子。

彼女は、元々住んでいた御手洗家で、偽名を使い家事代行として働くことを計画したのです。一体なぜ?

ここで冒頭のシーンに戻ります。13年前、御手洗家は火事で全焼していました。この「炎上」の原因は、当時の御手洗家の妻による、火の不始末。
妻は、夫と娘の前で土下座し、「私のせいです⋯⋯ 」と謝っていました。

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この娘というのが、「山内しずか」こと、杏子でした。

彼女は13年前、燃え盛る自宅の前で、土下座する自分の母親を見ていたのです。

その時に杏子は、火災に集まってきた野次馬に紛れて、ある一人の女が笑っているような、獲物を必死で仕留めた後のような表情をしているのも見かけたのでした。

それが、真希子でした。

かつて、保護者会をきっかけに自分の母と知り合った時には、地味な女性だった真希子。ですが、母に近づくにつれ、しぐさや服装でだんだんと母の真似をするようになり、ついに、御手洗家の「炎上」の後、母と別れた父親と再婚までしてしまったのでした。

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一方、「炎上」の後、父と別れた母は、心を病んでそれまでの華やかさをすっかり失ってしまった。

母の人生を奪うような生き方をしている女。
きっとこの女がわたしたちからすべてを奪った。

そう感じた杏子は、真希子の正体と、母の無実の罪を晴らすため、元・我が家に潜入してあの13年前の犯人の証拠をつかもうとします。


御手洗家に家事代行として潜入を続ける杏子が、真希子の息子に計画を悟られそうになる様子や、杏子の妹が、姉の助けになりたい一心で危うい行動に出る場面も。「炎上寸前」のスリリングな展開が続き、ドキドキが止まりません。

杏子の母親はほんとうに「炎上」の犯人だったのか? 果たして「炎上」しそうのは誰なのか? 全てを手に入れたと思っている真希子、家の歪みを背負っている真希子の息子。真希子に復讐を誓う杏子に、心を病んでしまった杏子の母。
御手洗家のお金と地位に、狂わされ、翻弄されている登場人物たち。読んでいくうち、どの人物にも実はウラがあるのでは? と疑ってしまうミステリアスな作品になっています。


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『御手洗家、炎上する』
著者:藤沢もやし
講談社

代々病院を経営する御手洗家では13年前、自宅兼診療所が全焼するという事件があった。原因は、妻の火の不始末とされたが、長女は自分の母親がそんなことをするとは信じられなかった。それから13年後、美しい後妻が嫁いだ御手洗家に「山内しずか」と名乗る女が家事代行で働き始める。実は、彼女は御手洗家の元・長女だったのだ。

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作者プロフィール:
藤沢もやし

2015年に『ファムファタルと昼食を』でハツキス新人マンガ賞第1回大賞を受賞しデビュー。その後、『ハツキス』で『17歳の塔』を2015〜2016年まで連載、2017年から現在までは『Kiss』にて『御手洗家、炎上する』を連載中。


構成/大槻由実子