パワハラにセクハラ、モラハラをはじめ近年はあらゆる種類の「ハラスメント」が言葉で表現されるようになりましたが、それを行っている人たちに対してどのようなイメージをお持ちですか?

「パワハラ」なら鬼の形相のカミナリオヤジ? 「セクハラ」なら脂ぎったスケベオヤジ? いえいえ、仕事熱心で誠実、それこそ部下想いでコンプライアンス意識の高い男性であってもハラスメントで訴えられるパターンが増えてきているのです。

そのような“無自覚”なハラスメントの行為者となった人を取材したルポルタージュ『捨てられる男たち 劣化した「男社会」の裏で起きていること』では、生々しくて悲哀に満ちた実例と共に、そのような事態を生んだ社会的背景を考察しています。

もしかしたら、皆さんの周りのハラスメントオヤジもそういった社会的背景の犠牲者かもしれません。人間の見方が変わるかもしれない本書から、「パワハラ」を生む構造に言及した部分を抜粋してご紹介します。

 


バブル世代や団塊ジュニア世代はパワハラの温床


現在、パワハラやセクハラの行為者になりがちなのが50歳代、40歳代というバブル世代や団塊ジュニア世代です。片や就職売り手市場の恩恵を受け、片や就職氷河期の辛酸をなめ……と社会人経験は若干異なりますが、競争社会の中で育ち、「男性優位」の旧態依然とした価値観に支配されていることは共通している、と著者の奥田祥子さんは分析しています。

 

「たとえ一瞬であっても、『男らしさ』のジェンダー規範を具現化した成功体験のある場合が少なくないことが、旧来の価値観からの脱却を困難にしている。この『男社会』の価値観がもたらす、部下世代との世代間ギャップ、性差によるコミュニケーション不全などもハラスメントを誘発する深刻な問題だ」

彼らの部下の多くがいわゆる「ゆとり世代」。もちろん個人差はあるでしょうが、大まかに見て「少子化で幼少期から競争が少なく、不景気が日常だったという時代背景、さらにはインターネットやSNSなどソーシャルメディアを自由に使いこなし、『場』の空気を読み、私生活を重視する」という特徴があります。そこを理解しようとせず、自分たちの基準で教育・指導を行ってしまうところに“パワハラ”の罠が潜んでいると奥田さんは指摘します。

「中年の男性管理職の心にいまなお根強く存在するのが、滅私奉公、上司の指示には絶対服従といった、多様性や分権化が求められる現代社会ではもはや通用しない、男性主導の画一的で権威主義的、排他的な価値観である。そうした『男社会』の固定観念、論理が、“無自覚パワハラ”を誘発しているのである。その背後には、パワハラへの認識が不十分なだけでなく、部下の考えや気持ちを理解しようともせず、自身の行動規範や価値観に基づいて物事の是非や成否を決めつけたり、理想を押しつけたりするアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見・思い込み)が必ずといっていいほど存在する」
 

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【参考】データで見るパワハラ&セクハラの実態
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