洋服、靴、食器、家族写真、本、人からもらったお土産……。家中のものを片付けたい、でもなかなか手を付けられないという方も多いでしょう。

そんな人ほど「思い切って大事にしていた『宝物』を捨てたほうがいい」とアドバイスするのは、女優の中村メイコさん(87歳)。新刊『大事なものから捨てなさい』で明かした「捨てる極意」を実践してみてはいかがでしょうか。


元祖子役・中村メイコさん87歳の少女時代と結婚式の秘蔵写真
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「ごめんなさい、ごめんなさい。でも、『お別れ時』が来たの」

古いキューピー人形を抱きながら、私は何度も言い訳を繰り返した。今からこの人形を捨てるのだと思うと、胸が張り裂けそうだった。
他人から見れば、ただの子どものおもちゃかもしれない。しかし私にとって、これは大切な「宝物」なのだ。

このキューピー人形を下さったのは、昭和の喜劇スター「エノケン」こと、榎本健一さんだった。2歳8ヵ月での芸能界デビューということになった私には、同世代の友達がほとんどいなかった。代わりに相手をして下さったのは、エノケンさんや古川ロッパさん、徳川夢声さんといった昭和の大スターである。彼らは、子どもなりに頑張っている私に、さまざまなおもちゃを下さったのだ。

 

「今までありがとう。大好きだったよ」
そう言って人形の頭を優しくなでていると、ぽろぽろ涙がこぼれてきた。戦時中、奈良に疎開していたときも、この人形たちを肌身離さず持っていた。

キューピー人形に詰まっているのは、幼き日の思い出だけではない。
何が何やら分からないまま仕事を続けているうちに、女優の仲間入りをして「少女スター」と呼ばれるようになった。プライベートでは二十三歳で夫と結婚、女の子二人と男の子一人を育てる母親にもなった。その間、何度も引っ越しをして、家も建てたが、セルロイド製のキューピー人形はずっとそばで、私のことを見守り続けてくれた。

しかし八十歳のとき、その「守り神」を捨てることにした。

きっかけは、マンションへの引っ越しだった。それまで住んでいた自宅は、敷地三百坪の地上二階、地下一階という体育館のような豪邸だったが、この先の人生を考えて、こぢんまりした住まいに移ることに決めた。

ただ、そのためには大量にものを捨てなければならない。人間八十年も生きていれば、ものも思い出もたまって当然だ。我が家の場合、それがたまりすぎていた。膨大な量の洋服や仕事でもらった台本や写真、作曲家である夫が使う大量の楽器、さらには来客用の食器やワイン……。

いったいどこから手をつけようか――。

これまでだって、年末には必ず大掃除をしてきたし、たびたび「ものを捨てよう」と思って行動には移してきた。しかし買い物が大好きな私は、捨てた分だけ新しい洋服や靴を買ってしまう。その場しのぎで家中のものをなんとか減らして新居に移ることができたとしても、またものだらけにしてしまうのは確実だ。
「このまま死んだら、子どもたちに迷惑がかかってしまう」

いよいよ決断のときが来たと思った。「ものをため込み、ものに囲まれる生き方」をばっさりやめるのだ。

だから、最も捨てにくいものから捨てることにした。自分にとって大事なものでも、残された子どもには処分に困るような「宝物」から減らし始めたのだ。
キューピー人形だけではない。昭和のスターたちからもらったおもちゃはたくさんあったが、すべて捨てた。女優生活でたまりにたまった記念品や、自分が出演した番組のビデオも残らず手放した。