――そのために、私たちができることは……?

藤野:やはり、「自分の“好き”を大切にしよう」ということですね。世界と比べてみて、日本では「自分の会社が好きではない」という人の比率が非常に高いです。

あるデータで自分が働いている会社に対する信頼度を聞いたところ、日本では、「自分の会社が好き」という人は59%、「自分の会社が嫌い、もしくは大嫌い」という人は40%くらい。

一方で、アメリカでは、80%の人が「自分の会社が好き、もしくは大好き」といいますし、中国では、その割合が86%にのぼります。

なぜかというと、アメリカ人や中国人は、会社が嫌だったら、すぐに辞めてしまって、好きなところに転職するから。

日本では、「今の会社が嫌だ」「上司が頭にくる」「扱っている商品がいまいちだ」といっても、配偶者や親から「なにバカなことを言っているの。好き嫌いで仕事を決めるな」「せっかくここまで働いてきたんだから、今辞めるのは損だ。がんばって働きなさい」などと言われますよね。

好き嫌いに忠実に生きるよりも、損をしないことを選ぶ。
それが、私たちの人生を苦しくしたり、つまらなくさせたりして、今後の可能性を削る大きな要因になっているんです。

「自分の好き嫌いにもっと忠実になろう」と、お伝えしたいですね。

――「自分の好き嫌いを大切にする」ということは、先ほどの藤野さんの「真面目」の本来の意味である、「それぞれが、それぞれのあり方であるべき」というお話にもつながりますね。

 

藤野:そうですね。大人になってもそうですが、「好きなもの、嫌いなもの」が分からなくなっている人が多いのではないでしょうか。
「好きな本」や「好きな人」「好きな生き方」はなんですかと聞くと、困った顔をする人が多いと感じます。

面接などで、「5年後、10年後にしたい夢って何かありますか?」と聞くと、「なんでそんな質問をするのだろう?」と固まってしまう人も多いですね。

でも、ある日突然、富士山やエベレストに登っていることって、ないんですよ。
まず、自分の意思でそこに行こうと思わないと、ありえないこと。
つまり、人間は思った以上のことは、起こらない。少なくとも、いいことでいえば、起きないんですよね。

いきなりカラスが札束をくわえて上から落としてくれるっていうことなんて、人類の歴史で何回かはあったかもしれないけれど、まず遭遇しないのです。

 

――自分の意思を持ってイメージをしてこそ成し遂げられる、という……。

藤野:そうなんです。私はこの話が好きなのですが、『谷底の神父』という寓話を聞いたことがあるでしょうか。

ある神父さんが、谷底の教会でずっとお祈りをささげていて、村人からとても愛されていました。
あるとき、数百年に一度という大洪水があって、谷底の村がどんどん浸水していきました。村人が神父さんに「一緒に逃げましょう」と言ったのですが、「私はこれだけ神様にお祈りをしているから、絶対に助けてくれます」と言って、追い返しました。

さらに浸水してきて、ボートで助けにきてくれた人が「これに乗って逃げましょう」というと、「いや、神様は必ず奇跡を起こしてくれるので大丈夫です」と言って断りました。

協会の屋根まで水が上がり、神父さんは屋根に上っていたら、ヘリコプターから縄ばしごを出して「これに乗って逃げてください。これが最後のチャンスです」と言うと、神父さんは「大丈夫です、絶対に神様が助けにきてくれます」といって、ヘリコプターがいなくなり、神父さんは死んでしまった、というお話です。

お祈りをささげていたので天国に行ったときに、神様に「どうして助けてくれなかったのか」と聞いたところ、「ちょっと神父さん、私は3回助けをよこしましたよ」といったんです。

さて、どう感じたでしょうか。

要するに、神の助けというのは、人の手によるものなんですよね。人の手は、神の助け。つまり、人間に対する信頼やチャンスというのは、向こうからやってくるということ。

夢を持って自ら行動し、行動している人に対して周りの人が手をさしのべてくれる、それによって成長していくというお話です。

――まさに今、困難な時代を生きていくために大切なことが、凝縮されているような気がします。

藤野:はい、だからこそ、自分の好き嫌いをしっかり感じとって、夢を持って、行動して、周りの人を巻き込んでいくことがいかに大事か、と思うんです。
私自身、その想いを忘れずにこれからも仕事をしていきたいですし、社員や皆さんに伝えていきたいと思います。
 

撮影/水野昭子
取材・文/西山美紀
構成/片岡千晶(編集部)

 


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