結婚3年。幸せだった夫婦の間に陰りが……

 

典子さんの感情は、複雑でした。「絶対に子供はいらない」と言い切れるほどでもないのですが、30代に入り、キャリアも絶好調。それを中断してまで、“今、絶対に欲しい”とまでは思えなかったのです。

同時に、順風満帆だった夫婦生活に陰りが見え始めました。

 


「夫婦の関係も3年くらい経つと、最初に抱いていたドキドキや、恋愛感情は薄れてきますよね。その頃は、彼の欠点がやたらと目につくようになりました。同じ会社で同じように働いていますが、家のことは全て私に任せっぱなし。でも稼ぎも同じくらいだったので、家にかかるお金は完全に折半です。

もちろんそんなことで嫌いになったりはしませんが、何度か話し合いはしました。でも彼は家計の負担のバランスを変える気はないし、相変わらず家事は何もしません。というか、やろうとしてもできないのです」

元夫は一人っ子で、母親から大変可愛がられて育ちました。母親は、父親の会社の事務を手伝いながら、家事も完璧にこなしていたそうです。息子が大人になっても何から何まで世話を焼くタイプ。

「世間一般で言う“マザコン”というやつでしょうか。でも姑はとてもいい人で、私にも優しかったので、結婚前は特に気にしていなかったんです」

問題はマザコン気質かどうかよりも、母親に全てやってもらうのが当然という環境で育ったので、家事能力が一切ないということ。そして仕事をしながら家のことも完璧に成し遂げる母親の役割を、無意識に妻にも求めていたのかもしれません。

さらには、同じ会社にいることで、典子さんは聞きたくない夫の噂を耳にすることがありました。

「会社では、後輩からの評判が非常に悪かったようです。『実は仕事できないよね』なんて女子社員から陰口を叩かれているのも知っていました。自分の夫がそんな風に言われるのは辛かったですが、家でも彼は、私にストレスを与えてばかり。職場でも変わらないんだなあ……と納得するようになって。気づいたら、家にいても会社にいても、彼のことを一切尊敬できなくなっていたんです」

一度尊敬できなくなった夫を、再び前のように愛するのは難しいのかもしれません。典子さんは自身の気持ちの変化を自覚しながら、「離婚なんて簡単に踏み切るものではない」と自分に必死で言い聞かせていました。

ところが、決定打となったのはある夜の出来事でした。

「それまで男性と二人きりで飲みに行ったこともほとんどなかったし、夫の信頼を裏切るような行為も一切したことはありません。でもむしゃくしゃしていて、ある男性と飲みに行きました。

そこでちょっといい雰囲気になって……。一線は超えませんでしたが、自分でもショックでした。前の私だったら、絶対に軽率な行動は取らなかったので。その男性とはそれ以降会っていませんが、あの時ハッと気づいたんです。私は夫に言えない行動をしてしまうくらい、もう彼を愛していないんだということに」