女としての本能が「子供はいらない」と叫んでいた

 

こうして典子さんは、離婚を切り出したのです。家事の負担や夫婦のお金のことをきっかけにストレスが溜まり、限界に達したことを告げ、以前のように彼を愛する気持ちがなくなってしまったことも打ち明けました。

突然の離婚の提案に、もちろん元夫は驚き、すぐには受け入れなかったそうです。「努力して変わるから考え直してほしい」と説得してきましたが、典子さんの決意は変わらず、数ヶ月の別居を経て離婚することが決まりました。

再婚することになったのは、それから3年後のこと。元夫は、典子さんの再婚を知っているのでしょうか。

「今でも同じ会社の同僚ですから。部署などは違うのでほとんど顔は合わせませんが、きちんと報告はしましたよ。でも実は、元夫は私より先に再婚したんです(笑)。今では子供もいるようです。お互いにきちんと再スタートを切れたことは、心からよかったと思っています」

ちなみに典子さんも現在は、再婚した夫との間に子供が一人います。最初の結婚当時は「子供が欲しいとは思えなかった」と言っていましたが、どうして二度目の結婚では考えを変えたのでしょうか?

「それが不思議なんですが、今の夫とは出会った時から“この人とだったら子供を産みたい”と自然に思えたんです」

最初の結婚で「子供はいらない」と言っていた女性が、離婚して再婚後にやっぱり子供が欲しくなる、というケースを他でも聞いたことがあります。このような心境の変化はどうして起こるのでしょうか。

「うまく説明はできませんが、最初の結婚の時は、女性としての本能が“この人との子供は産みたくない”と主張していたような気がしてなりません。

家のことを何もしてくれない夫だったので、当時は仕事と家事の両立で、正直、発狂寸前だったんです(笑)。あれで出産や育児までしていたらと思うと、ゾッとします。そういう意味で、本能が危険信号を出していたのかも、と思うことがあります」

 


「離婚って、実は何でもないことなの」


離婚後も気持ちを切り替え、新たな人生をスタートさせた典子さん。これまで話を聞いてきた離婚経験者の女性たちは、「離婚によって深い心の傷を負い、立ち直るのに苦労した」方々でした。

「私の場合は自分が離婚を切り出した側なので、切り出された側の苦悩とはまた違うかもしれません。それでも当然辛い期間はあったし、苦しい時期もありました。ただ、自分の気持ちをなるべくポジティブに持っていくよう努力しましたね」

もしも誰かから「離婚したら幸せになれますか?」と聞かれたら、彼女の場合はやはり迷わずYESと答えるのでしょうか。

「幸せになれるかどうかは、本人次第だと思いますが……。ただ、もし離婚することになって絶望している人がいたら、こう声をかけてあげたいです。『大丈夫。離婚って、実は何でもないことだから』って。

もちろん実際は、大変な出来事です。病気になるほど苦しんだり、訴訟などで苦労する人もいるでしょう。でもだからこそ、傷を負ったなどと思わずに、『何でもない』って自分に言い聞かせて前向きになってほしいです」

離婚の件数は年々増え、現代では珍しいことではなくなりつつありますが、確かに“バツがついた”という表現があるように、離婚を人生の汚点と捉えてしまう人もまだまだいるのが現実です。それによって自分を責めたり、苦しみ続ける人もいるでしょう。

「離婚って、実は何でもないことだから」。もし誰からからそう言われたら、「他人に何がわかるの?」と不快に思う人もいるかもしれません。しかし典子さんの口から出たこのセリフは、温かみに溢れ、未来に向けてのポジティブな言葉に聞こえました。
 

構成/山本理沙


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