「最初から最後まで4分くらいの曲ですが、案の定選んだのは僕だけ。まず、指揮台に立つとコンマスをはじめオーケストラ全員が僕を一斉に見るわけです。それもすごく興味津々に……。そして僕が腕を振り下ろし指揮を始めると、音が一斉に鳴り音楽が『ばーっ』となり始める……それが12歳の自分にはとても衝撃的で、なんて指揮って面白いんだろう、なんてクラシックって面白いんだろうと。絶対指揮者になると思った瞬間でもありました。バレエを観ていても『白鳥の湖』で“チャルダッシュ”の場面にさしかかると、当時のことが記憶に甦えってきて、すごく楽しい気分になりますね」

「運命」とか「奇跡」じゃなく、最初から決まっていること


子供の頃に味わった悔しさも、そして心に鮮やかに刻まれた素晴らしい音楽体験も、一つひとつのシーンを丁寧に回想していく様子が印象的なインタビュー。当時22歳だった若き音楽家は、インタビューの最後をこのように締め括っています。

 

「僕は、『運命』とか『奇跡』とか、そういう言葉を余り信じないんです。転換点というものは、あるようでないと思っている。僕のこれまでの人生にも、分岐点はなかったんです。『そうなるはず』ということは既に決まっていて、それは『運命』とも似て非なるものであり、最初から決まっているんだと。僕は出会うべき人に出会ってきているし、佐渡(裕)さんにも、(アンドレア・)バッティストーニにも、会える『さだめ』だったと感じています。そんなに詳しくないけど、宇宙とかブラックホールとか、パラレル・ワールドに興味があって、地球というのは宇宙の片隅の灰のようなものでしかないと考えている。だから、絶対に宇宙のどこかで、今日の会話と同じことが交わされていているという確信があるんです」

 

この言葉から約4年後――。27歳にして「第18回ショパン国際ピアノコンクール2021」で2位入賞という快挙を成し遂げ、ファンタスティックな“必然”を見せてくれた反田恭平さん。世界を舞台に進化を続けるその姿から、ますます目が離せなくなりそうです。

※本インタビューは、書籍『SOLID』より一部抜粋・編集・構成したものです。

著者プロフィール
反田恭平(そりた・きょうへい)さん

1994年生まれ。2012年 高校在学中に、第81回日本音楽コンクール第1位入賞(高校生での優勝は11年ぶり、併せて聴衆賞を受賞)、毎日新聞社主催による全国ツアーで好評を博す。2013年、桐朋学園大学音楽学部に入学するも、同年9月M.ヴォスクレセンスキー氏の推薦によりロシアへ留学。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学。2015年5月「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝。同年7月、デビューアルバム「リスト」を日本コロムビアより発売。9月には、東京フィルハーモニー交響楽団定期への異例の大抜擢を受け、ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲を熱演し、満員の会場で大きな反響を呼んだ。12月には「ロシア国際音楽祭」にてマリインスキー劇場管弦楽団とのコンチェルトと、リサイタルでマリインスキー劇場デビューを果たす。2016年1月のデビュー・リサイタルは、サントリーホール2000席が完売し、圧倒的な演奏で観客を惹きつけた。7月にはトリノで、Aバッティストーニ指揮RAI国立交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番のセッション録音を行い、11月に発売。8月の3夜連続コンサートをすべて違うプログラムで行い、各日コンサートの前半部分をライブ収録しその日のうちに持ちかえるというCD付きプログラムも話題になる。また、このチケットは一般発売当日に完売し、3日間の追加公演を行うなど、もっとも勢いのあるピアニストとして注目されている。

『SOLID』
著者:反田恭平 世界文化社 2750円(税込)

第18回ショパン国際ピアノ・コンクールで日本人最高位である第2位に入賞! とどまることを知らない驚異のピアニスト・反田恭平さん初のフォトブック! 演奏シーンはもちろん、オフショットや幼少期時代の写真など様々な表情が満載となっています。また、反田さんのこれまでとこれからを包み隠さず語ったロングインタビューや、スペシャル対談も。反田さんの魅力の詰まった一冊です!


撮影/小林秀銀(演奏時カット)、
彦坂栄治〈まきうらオフィス〉(モノクロカット)、
sai(オフショット)
取材・文/小田島久恵(書籍『SOLID』)
構成/金澤英恵、大平麻耶子
この記事は2021年10月27日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。