靴選びの基準は「出先で地震に遭っても歩いて帰れる靴」


ヒールが4センチ以上ある靴は、今後ファッションとして履くことはほぼないだろうと思っていて、ブラックフォーマル用の1足だけは残し、 他はじっくり吟味しながら処分している途中だ。トレンドやコーディネートのバランス的には、ヒールのほうがきまるという日はもちろんあるけれど、今のところ、自分のおしゃれにはもはや細くて高いヒールの靴は存在しないもの、として生きている。

「靴の整理」で知る今の自分。メルカリ後に残ったのは、“歩いて帰れる靴”だけ_img0
パンツの形は、ワイドパンツやスキニーが流行ろうとも、「くるぶし丈のテーパード」が基本。左はdress herself、中央と右はSOEJU。これにマニッシュな靴を合わせるバランスが好き。

その方針が決まったのは、東日本大震災だった。あの日、わたしは仕事で渋谷に出かけていて、電車が早々に止まってしまったことから千葉の自宅に帰れなくなり、駅前のホテルのロビーで夜を明かすことになってしまった。つまり、帰宅難民経験者である。翌朝、地下鉄の銀座線が動きはじめたので、それに乗って上野までは行けたが、JR上野駅周辺が大混雑で、駅の構内に入れるのでさえ、いったい何時間かかるだろうか、という状態だった。

 

そのとき、JRを使わない帰宅ルートを思い立ち、上野から押上まで4キロの道のりを1人でテクテクと歩いた。その日履いていたのは、足によくなじんだフラットな革靴で、この靴なら1時間でも2時間でも歩ける、と思える靴だった。

その判断と行動によって、上野駅の混雑を前に途方に暮れた瞬間から、およそ2時間後には、自宅で家族と会えていた。あの日に履いていたのが、長時間歩くのはキツイと感じてしまう靴だったら、まったく違う展開になっていただろう。だからあの日を境に、わたしの靴選びの基準は「出先で地震に遭っても歩いて帰れる靴」になったのだ。

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「地震に遭っても歩いて帰れる」という条件と、洋服との合わせやすさから絞り込んだ靴。他にスニーカーとサンダルが1足ずつあれば、今は十分な気がしている。奥の列、左のブーツはBlundstone、右2足はエバゴス、手前2足はショセ。

先日読んだ大人のおしゃれの本に、「靴はその日の行動を決めるから、コーディネートはまず靴を選ぶことからスタートする」と提案されていて、ハッとした。本当にそうなのだ。靴は、行動を決める。そして行動の積み重ねは、生き方へとつながっていく。大げさかもしれないけれど、わたしは真面目にそう考えている。

だから靴の整理には、服よりも時間がかかる。1足、1足、手に持って眺めたり、磨いてみたり、これから着たい服と合わせてみたり、この先の自分の仕事や生活をイメージしてみたり。 
その結果、「やっぱり、もっと頻繁に履いてもらえる人のところへいったほうがいいね」と思った靴を、欲しいと申し出てくれた人の元へ送り出す。その一連のプロセスを経て、納得のいくお別れができる。 

他のどんなものを整理するより、靴の整理にドラマを感じてしまうのは、こういうわけなのだ。 
 

(この記事は、小川奈緒著 『ただいま見直し中』から一部抜粋・改変したものです)

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『ただいま見直し中』
著・小川奈緒
技術評論社

これまでの習慣や思い込み――お金の感覚、モノの持ち方、大切なことの優先順位、40代の終わりを迎える著者が日々の違和感に向き合い手がかりを探っていく、爽快で心地よいエッセイ 。
日曜の晩酌をやめてみたら/おしゃれの優先順位/防災は続くよ、どこまでも/携帯料金で浮いた8千円について/ブログの毎日更新をやめた理由/アラフィフ、断食に挑戦する/メルカリへの感謝状/得意なもので勝負するetc.


撮影/キッチンミノル
構成/松崎育子(編集部)

 

 

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