仕事場を持ったのは“未来の自分への投資”

仕事部屋用に購入したものの中で、一番大きい買い物はiMac。大きな画面のおかげで原稿チェックやイラスト描きも作業しやすくなったそう。大好きなイエローで統一されたデスク周り。

実はコロナとは関係なく、会社員としての枠を超えたフリー的な業務が増えてきたため、部屋を持つことが“未来の自分への投資”という考えもあったといいます。

 

「2020年の春ごろから、〔ミモレ編集室〕で編集・ライティング講座の講師を担当するようになったり、Podcastで“真夜中の読書会”という配信番組を持ったり、ここ1年で自宅での収録・録音・執筆活動が増えたのと同時にバタやんの名前で露出する機会も増えました。それまではどちらかというと会社員編集者として、通常業務の傍ら出たり書いたりしていましたが、そろそろ本腰を入れて自分の名前を立てて仕事をする転機が来ているのかもしれないなと。覚悟を決めるために、先に収録・執筆環境を整えてしまおうと思ったんです。自分の中でキャリアの節目なのかなという気持ちもあって、そのための投資として部屋を借りました」

取材相手の著書、ゲラ(原稿の束)、プルーフ(発売前見本)や、Podcast“真夜中の読書会”で紹介する候補の本、デザインの参考にしたい本など、仕事上急ぎで読む必要のある本だけが置かれた本棚。読み終わったら、自宅に持ち帰ることが多いのだそう。

執筆や校正のほか、取材のために本を読んだり映像を観たり、コロナ前までそれらはもちろん会社で行っていました。ですが周りの会話が気になって、なかなか集中できなかったと言います。今はこうして仕事部屋を構えたことで、ここにいる時だけは仕事に集中し、自宅に戻ってからはリラックスした気持ちで過ごせるようになったのだとか。

玄関側は南向きで明るいので、ちょっとしたアートやルームフレグランスなどをディスプレイ。ルームフレグランスの香りを自宅と変えることで、この部屋に入ると仕事モードに切り替わる感じがするそう。

「基本は朝10時ぐらいにここに来て仕事をして、18時頃には出るようにしています。寝泊まりはもちろん、ここでは晩ご飯すら食べないので、本当にオフィスとして使っているだけですね。1つだけ不便なのは、クローゼットや収納がまったくないこと。なので上着やちょっとした着替えはシャワールームに引っ掛けています。ハンガーラックや収納ボックスを買えばいいのかなとも思いますが、いずれ撤収することを考えて、あまり家具を増やさないようにしています。でもその分、ここには最小限の空間の良さがあります」

そんな二拠点生活の様子を伺っていると、突如「実は私、3つ目の拠点も持っているんです」というビックリ発言が。

「今話題のメタバースって知ってます? 仕事がひと段落すると、このヘッドセットのようなVR機器をかぶってバーチャルリアリティの世界に行くんですよ。そこには第三の自宅があって、私は雪山のロッジのような、暖炉のある大きなヨーロッパ風の別荘に住んでいるんです(笑)」

VRヘッドセット“Oculus Quest 2”で三拠点目に移動!?


みんなが新たな拠点を持てるメタバースの世界


なんだなんだ、仮想3次元空間のことだったんですね(笑)。ですが侮るなかれ。このメタバース、発売元である元フェイスブック社は今後2年間で約5,000万ドル(約55億円)を投資すると発表し、社名も“Meta(メタ)”へと変更。川端さんいわく、「それほどの熱の入れようなので、おそらく10年もしないうちにみんなが二拠点を持つ生活が、オーソドックスになりそうな気がします」とのこと。360度から音声が聴こえてくるので、まるで隣に人がいるかのような、リアルな感覚で会話ができます。

仮想3次元空間“メタバース”に存在する川端さんの第三の拠点。


人間関係をより良くキープするための多拠点


最後に、多拠点について尋ねると、こんな答えが。

「在宅勤務になったからといって、夫婦2人とも書斎のある広い家に引っ越すというのは現実的じゃなくて。だったら試しに1部屋借りてみて、ムダだと思えばやめてもいいという気持ちで私は探し始めました。仕事と読書のためだけにここに来て、そういう意味ではすごく贅沢だと思います。この感じをずっと続けたいとは思わないですけど、今は自分のキャリアの転換期にギアを入れるための投資で、会社員編集者でありながら、フリーランス的要素のある働き方をひと足早くやってみようという気持ちです。

ここを借りてからは、夫と仕事終わりに待ち合わせをして食事に行ったり、結婚前みたいで楽しいですね。自宅には毎日帰っていますが、もしかしたら前向きな有機的別居ってあるかもしれないなと思ったりもします。夫婦や家族の関係をより良くキープするための別居というか。同じマンションで2部屋というパターンもあるかもしれないですし、今後はそういう形が増えても良さそうな気はしますね」

 

次回は、2015年に都内から鎌倉に拠点を移し、さらには箱根にも古家付きの土地を購入された方の話をお届けします。

取材・文・構成/井手朋子
 
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