名門女子校の意外な一面とは?


「佐知ちゃん、あの学校のどんなところがいいと思ったんでしょう?」

真紀子はにこにこしながら、運ばれてきたコーヒーを一口、飲んだ。よく手入れされたベージュのネイルの左手には、上品な結婚指輪が光っている。艶のある長い髪をこなれた感じに一つに結び、服装もシンプルだが上質なものだとわかる。こんなお母さんならば子どもは幸せだろうなと思った。真紀子が専業主婦で、聡子のお弁当はいつも可愛いと佐知が言っていたことを思い出す。

 

「佐知は、本が好きで、まず図書館やクラシックな学校の佇まいに憧れているんだと思います。受験フェアで話した先生も、本当に素敵で……本人は口にしませんが、部活動が活発で、芸術鑑賞がひんぱんなところや、イギリスの姉妹校に語学研修があるところなんかも、熱心に調べた形跡がありました。でもうちの状況を見て、遠慮しているみたい。

あの、こんなことを河合さんに伺うのは大変、大変失礼と存じているのですが、授業料や施設費以外に、年間どの程度資金を用意すれば、子どもが不自由なく通うことができると思われますか?」

真紀子は桃香の切羽詰まった質問に、嫌な顔をするどころか真剣に算段を始めた。

 

「そうねえ……ウェブサイトに書いてない出費としてはまず制服一式、あとは通学の定期代、部活関連、修学旅行が海外だからその積立、意外にあなどれないのがお友達と遊びにいくときのお小遣い、かなあ。でも、みんな節度はあるし、常識の範囲内だと思います」

「その『常識』が、私には全然、わからなくて。佐知に嫌な思いをさせるんじゃないかと」

肩を落とす桃香に、真紀子は思案しながらも意外な言葉を口にした。

「でも、国見さんは、自分の常識に縛られずに、佐知ちゃんに新しい世界を体験してほしいってことですよね? それだったら、あの学校はぴったりだと思う。カトリックだからイメージほど派手じゃないです、堅実を掲げてるし。

もちろん実際は代々通う富裕層のお嬢さんもいるけれど、お金のあるなしで子どもがみじめになるような校風じゃないですよ。何よりカリキュラムもイベントも伝統校らしく本当によく練られていて、6年間でいただける恩恵は計り知れないと思います。じつは私も卒業生なの。佐知ちゃんがあの学校にピンときていて、それを国見さんが応援するっていうのが素直に嬉しいし、とっても素敵だなと思います」

それに、と真紀子はいたずらっぽく笑った。

「今時、離婚なんて珍しくもなんともないです。そんなこと気にするひと、いないんじゃないかな。それよりね国見さん、もし合格したら、勉強のほうがよっぽど関心事になるのよ~。定期考査もそりゃあ厳しいの、もう母娘で毎日ひいひい言ってて、余計なことはきっと忘れちゃうわ。だから心配しすぎないで、挑戦してみたらどうかしら」