体外離脱体験によって「死への恐怖を失う」ことの功罪

 

ちなみに、近年は科学の発達で脳外科手術をせずとも、触覚を刺激するバーチャルリアリティー(VR)装置を使って体外離脱体験ができるようになったそうです。しかし、著者の駒ヶ嶺さんは、VRで人工的に体外離脱体験を生み出すことに一抹の懸念を抱いています。なぜなら、体外離脱体験を経験すると死への恐怖が和らいだという報告があったからでした。

 

「死への恐怖を失うこととなるのであれば、洗脳に悪用されるおそれもある。現に、世界中のカルト教団は、感覚遮断や薬物使用による体外離脱体験を、入信や服従など、人の心を簡単に支配できる手段として用いてきた歴史がある。体外離脱体験類似の離人感を伴うめまい症では、自己評価の低下や不安などの性格変化があるという研究もある。自己評価の低下や自信喪失を人工的に惹き起こし、心の隙間に入り込みやすくしている可能性もあるのだ」

駒ヶ嶺さんはこのデメリットを避けるためにアフターケアを行うことの重要性を述べていますが、一方で「死への恐怖が和らぐ」ことのメリットについても言及しています。

「がんやALS(筋萎縮性側索硬化症)などの病気が宣告された方は、ことさら差し迫る死に向き合わざるを得ず、そんな中、当然だが死への恐怖を克服できないことも想定できる。そういった場合に、VRによる死への恐怖の緩和は、一種の救いとなりえる。将来、緩和治療に組み込むべき手段となるかもしれない」