アートは、人類が苦難を乗り越えてきた証

 

今年43歳になる筆者。小学生の頃には、三原山大噴火や、チョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故、リクルート事件に昭和天皇の崩御、湾岸戦争にソビエト連邦崩壊など、今と同じ、もしくはそれ以上にたくさんの出来事が起こっていました。それでも父は毎年変わらず、筆者を美術展に連れて行ってくれたのです。

「こんな時に」のなくならない日常だからこそ、父も芸術や文化に触れられる平和な時間を大切にしたかったのかもしれない。少々身内を買いかぶり過ぎかもしれませんが、原田さんとヤマザキさんの会話を覗いていると、そんなことを思わずにはいられません。

原田 新型コロナの時代では、アートは不要不急だという話も出ましたが、こういうときこそ必要な場所ですよね。私たち人類にどんな苦難があっても、それを乗り越えた証として、美術館がある。文化財というのは、私たちの共通した財産であることをもっと意識しなくちゃいけないですね。私、美術館で素晴らしい作品を見ているとき、「この絵は私のものでもなく、隣にいるあなたのものでもない。だけど私たちのものだ」と思うと、すごく満足します(笑)。

ヤマザキ わかります。私は「この世に生まれ、残されるべきものとして、選ばれたのだなあ」ということを、感じながら見ますね。 

原田 美術館が美術品を世界中の人たちに見せる場を提供し続けるのは、大変な努力がいることですし、もちろんお金もかかります。本気になって維持していくのはなかなかできないことで、私たちが美術館、アートを助け続け、次の大人になる人たちのために繫いでいかなくちゃいけないですね。


『妄想美術館』を手にひとしきり物思いに耽ったところで……さて、この春みなさんはどの美術館に行きますか? 

筆者は、DIC川村記念美術館(千葉県)も素敵だし、静岡市立芹沢銈介美術館も捨てがたい。あれだけ通っていた日本民藝館(東京都)もしばらく行ってないな、などと考えあぐねながら、「こんな時に」もアートを謳歌したいと思います。

楽しく豊かな美術館体験のアイデアを授けてくれる『妄想美術館』。休日の過ごし方にお悩みの方は、ぜひ本書を手に取って参考にしてみてはいかがでしょうか。ちなみに現在、コロナ対策で「予約制」の美術館も多いので、お出かけ前にホームページを確認してくださいね!

 


作者プロフィール
原田マハさん

作家。1962年東京生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。伊藤忠商事株式会社、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、2005年『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し作家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞、17年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞を受賞。

ヤマザキマリさん
漫画家・随筆家。東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。15年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。17年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。

 

『妄想美術館』
著者:原田マハ、ヤマザキマリ
SBクリエイティブ 990円(税込)

アートを溺愛する著者ふたりが、名画にまつわる裏話、お気に入りの美術館、絵画鑑賞の秘訣から、アートにはまった原体験まで、幅広いテーマでアートを語り尽くします。とどまることを知らないふたりのアートの知識と愛の深さはもちろん、作家や作品の丁寧な解説が添えられた本書は、美術館めぐりの副読本にもぴったり。



構成/金澤英恵