こういうコテコテの韓国ドラマが、ずっと恋しかったんです……

冬ソナ世代のアラフォーが、韓国ドラマ『社内お見合い』を見て大興奮したワケ_img1
Netflixシリーズ『社内お見合い』独占配信中

15年以上前から韓国ドラマを愛してきましたが、今も昔も変わらず韓国ドラマが大好きです。しかし最近の作品は、すっかり洗練されたなと驚かされるばかり。

一昔前は韓国ドラマというと、中年女性が観るものだというレッテルを貼られがちでした。しかし現在はすっかりイメージが変わり、『梨泰院クラス』『イカゲーム』などのように男性からも熱い支持を得ていますし、若い世代の人たちも共感しやすいストーリー設定のドラマが増えてきました。

 

他に例を挙げるなら、20代女性に大人気だった『わかっていても』などは、それまでの韓国ドラマの概念を覆すものだったと思います。韓ドラお約束の奇想天外な展開よりも、男女関係による繊細な心の機微をじっくりと描いた、一言で言うなら“エモい”作品。

でもやっぱり、第一次韓流ブーム(冬ソナの時代です)から韓国ドラマを観てきた身としては、コテコテの韓国ドラマが恋しくなることがあるんです。韓ドラお得意の設定といえば、身分違いの恋、突然の事故、出生の秘密、禁じられた恋、財閥のイケメン、契約恋愛……etc。

最近の、世界にも受けるレベルの洗練された韓国ドラマもいいのですが、こういう王道の展開に「そんなわけないでしょ!」とツッコミながら、続きが気になってどんどんハマっていくという楽しみ方がやっぱり大好きです。


『社内お見合い』ではアン・ヒョソプが、財閥の御曹司であり、欠点ゼロなツンデレイケメン、カン・テムを演じています。この辺りは『キム秘書』にそっくり。そしてキム・セジョンが演じるヒロイン、シン・ハリは、チェーンのチキン屋さんを営む家の娘。これも、まさにありがちな “御曹司と一般家庭の娘の恋”。

冒頭のストーリーを、少しだけ紹介しましょう。主人公のシン・ハリは社長令嬢である親友の身代わりで行ったお見合いで、テムと出会います。

後になって、ハリが偽物のお見合い相手だったことがバレてしまうのですが、その償いとしてテムから、「これ以上お見合いをしたくないから、自分の恋人のふりをしてほしい」と契約恋愛を突きつけられてしまうのです。

テムは一見パーフェクトな御曹司でありながら、実は心にあるトラウマを抱えています。この設定にも「あれ? どこかで聞いたストーリーだな……」と感じたのは、私ではないはず。

その他、恋人に会いに行く途中で交通事故が起こったり、他人の前で付き合っているフリをする展開など、往年の韓国ドラマにありがちなシーンの連続。

そして、偶然二人の唇が重なってしまうという“事故キス”シーンも……。これでもか! という展開に、ニヤニヤが止まりません。

『社内お見合い』はまさに、“韓国ドラマあるある”がありとあらゆるところに散りばめられた、久々の作品でした。私は思わず、「そうそう、こういうコテコテの作品がずっと恋しかった!」と大興奮。

通常であれば、「どこかで見たストーリー」という既視感の連続に、オリジナリティを疑ったり、古臭さを感じるかもしれません。しかし作品の作り手側が、これらの“韓ドラあるある”をまるでいじるかのように、面白おかしく盛り込んでいるので逆に新鮮なのです。だからこそ、私のようなアラフォー以上の世代を喜ばせただけではなく、若い世代にも受けたのかもしれません。

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作り手側の遊び心が最も伝わってくるのが、作品中で登場する、カン・テムの祖父がハマっていた韓国ドラマでした。(財閥の会長がドロドロの韓ドラにハマっているという設定も本当に面白くて、コメディ要素がたっぷりなのも『社内お見合い』の魅力です)。

祖父が観ているのは、「がんばれ! クムヒ」という架空の韓国ドラマなのですが、テムとハリと同じく、財閥の御曹司とチキン屋さんの娘の身分違いの恋を描いています。「冬ソナの時代の映像なのかな……?」と思うほど一昔前の雰囲気のドラマなのに、物語中ではリアルタイムで放送している設定で、登場人物たちが夢中になって観ていました。

作品の作り手側も、古典的な韓国ドラマというのが、ツッコミどころ満載ながらも人々を夢中にさせる魅力がある、ということをよくわかっているのでしょう。だからこそ『社内お見合い』にコテコテの設定を詰め込み、私たちを喜ばせてくれたのだと思います。『社内お見合い』は、あらゆる韓国ドラマのオマージュによって生まれたラブコメ作品、と言えるのかもしれません。

余談ではありますが、大ヒットドラマ『愛の不時着』では、北朝鮮の兵士・ジュモクが20年近く前の韓国ドラマをこっそり観ていましたね。

「南朝鮮のドラマでは、危機を乗り越えるために男女がいきなりキスをしたりします!」と言っていたジュモクの言葉を参考にして、ジョンヒョクとセリが船内でキスをするシーンはあまりに有名。『愛の不時着』を観ていても、今の韓国の人たちが、古典的な韓国ドラマの設定を面白おかしく捉えていることが伝わってきます。ちなみに『愛の不時着』こそ、名だたる韓国ドラマのオマージュがところどころに詰まっており、古参の韓ドラファンを大喜びさせたと言われています。

それにしても、古典的だとわかっているのに、私たちが王道の韓国ドラマにやっぱりハマってしまうのはなぜなのでしょうか?

それは、自分とはかけ離れたあり得ない世界の中で、とにかくドラマティックな展開に振り回されるうちに、感情を大きく揺さぶられ、ドラマの世界に入り込んでしまう……いわば現実逃避できるから。そしてそこにはいつも、「私だってこんな恋したい!」と思わせてくれるイケメンがいる……。今回私にとっては、それがヒョソプでした。

8割の現実逃避と、2割の妄想。これを楽しむために、私たちは韓国ドラマを観続けてしまうのかもしれません。それにしても長引く『社内お見合い』ロスから、一体どのようにして立ち直れば良いのでしょうか……。

 

後編はこちら
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構成/山本理沙

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