小島: アメリカのトークショーで「どうやって英語を覚えたの?」と聞かれたRMは、「中学生の時に、親が買ってきたアメリカの人気ドラマ『フレンズ』のDVDを繰り返し見て覚えたんです。当時そういう英語教育法が流行っていて。いわば親の英語熱の犠牲者ですが(笑)、今ではとても感謝しています」と答えています。つまり、中学生から英語圏に留学するような裕福な家庭の子供たちとは違うやり方で学んだと。

今年4月のラスベカスのショーに際しても、これまでの道のりを振り返り、「2017年にアメリカのメディアに呼ばれたときはまだ英語が上手ではなく、ごく簡単な答えしかできなかった」と話しています。他のメンバーの英語力も格段に上達していますが、RMも絶えず努力を重ねていることがうかがえますね。

RMおよびBTSのような存在というのは、韓国の同世代の若者、特に男性からはどういう風に見えているのでしょうか。

韓国内で「誰にも批判されない権利を得た」と言われるBTSの存在


ホン:実は私は、「男性がBTSやRMをどう見ているか」という視点では研究したことがないんです。韓国では男性アイドルグループのファンは、男性が少しずつ増えているとはいえ、女性が圧倒的に多いですから。

ただはっきりと言えるのは、「彼らが成功するまでの道のりを考えると、誰も批判できない」ということ。BTSはものすごい努力をしてきました。韓国の一般的な成功方程式とは異なり、小さな事務所からデビューして、苦労を経て成功したんです。ファンも最初は海外のほうが多かったんですよね。

韓国ではこんな風に言われています。「BTSは批判免除権を得た」と。つまり、「何人にも批判されない権利」という意味です。BTSは、今や誰も批判ができないような地位にいて、批判を受けない権利を得たと言われているんです。彼らは逆境を努力で克服して成功し、韓国のイメージを改善したからですね。

「男性がBTSをどう見ているか」という点で、一番敏感で大きなポイントとなるのが軍隊の問題です。

韓国ではすべての男性に兵役の義務がありますが、免除される人たちもいます。海外コンクールで賞を取った芸術家や、オリンピックの金メダリストなどは、キャリアへの影響を考慮し免除されています。

それでは、外国で成功したアイドルは免除されないのか? という議論があります。その議論の最前線にあるのが、BTSなんです。

小島: その点は、私もとても気になります。年齢的にも、一番年上のJINが今年12月で満30歳を迎えますよね。そうなったらメンバー一斉に入隊なのだろうか、と……。兵役免除の可能性はあるのでしょうか。

ホン:先ほど批判免除権についてお話ししましたが、BTSが兵役を免除されることに反対する人はいないでしょう。兵役というのは、韓国で大変センシティブな話題なのですが、BTSについては男性も「なぜ免除されるんだ。入隊するべきだ」とは言いません。

でも、免除する基準を誰も定められないのです。

なぜなら、BIGBANGやEXOもみんな行っているわけですよね。G-DRAGONも入隊しました。ではBTSが免除される理由は何か、何を根拠にするのか。アメリカで成功したからとか、音楽市場で成功したからとか、アーティストの兵役が免除されるための客観的な基準が定められない状態です。入隊したらキャリアが中断するので心配する人はたくさんいるのですが、まだ答えがわからない状態なんです。

3月にはソウルでコンサートが開催された

小島: 先月、パン・シヒョクさん(BTSの生みの親であるプロデューサー)が、ソウル大学の名誉博士学位を授与されましたよね。それによって韓国における大衆音楽文化の評価が上がり、位置付けが変わって、クラシック音楽のような他の芸術と同列になるという可能性はあるでしょうか。それが、BTSの兵役免除に有利に働くことは考えられるでしょうか?

ホン:有利に働くことは全くないと思います。実はパン・シヒョクさんに名誉学位が与えられたということは、韓国ではあまり大きなニュースになってはいないんです。韓国の学校では色々な人に名誉学位を与えることがありますから。

 

同時に、さほど反応がないもう一つの理由は、彼が名誉学位を貰うのは当然のことだと皆が思っているからかもしれません。BTSを通じてK-POPを世界に広め、パン・シヒョクさんがいつも言っている「善なる影響を与えるアーティストを作りたい」ということを実現させました。でもそれが兵役に影響を与えるかというと、そこまでの影響力は全くないと思います。

――今回の対談では、BTSがこれほどグローバルに受け入れられた背景や、日本ではあまり知ることのできない韓国内での反応、そして世界中が注目するBTSの兵役問題についても語っていただきました。

第二回では、BTSが世界に見せた“全く新しい男性像”について、考察をお聞きします。

BTS現象を紐解く! 彼らが世界中の若者たちに受け入れられた理由
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1 写真:ロイター/アフロ
2 写真:代表撮影/ロイター/アフロ
3 写真:Lee Jae-Won/アフロ

『BTS オン・ザ・ロード』
ホン・ソクキョン 著
桑畑優香 翻訳
2021年6月11日発売
A5変型判 272頁
定価:本体2100円
発売・発行:玄光社

BTSが切り開いた世代・文化・人種・ジェンダーに対する新しい考え方によって、世界地図はどう再配置されたのか。そこから生まれる、新しい文化と享受体系とは。そして、BTSは、どうやって世界で最もパワフルな現象を作ることができたのだろうか。

本書ではその理由を、韓国でも最高レベルの韓流分析家、ソウル大学言論情報学科ホン・ソクキョン教授がBTSのヒストリー、文化的、社会的、メディア的な観点から詳細なデータやグラフとともに多角的に解き明かしていきます。

取材/小島慶子
翻訳/桑畑優香
担当編集/小澤サチエ
 

 


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