是枝裕和監督が初めて韓国で製作した話題作『ベイビー・ブローカー』。カンヌ国際映画祭で主演男優賞を含む2冠を獲得したことも話題の同作が、韓国に続いていよいよ日本でも公開されます。モチーフとして描かれるのは「ベイビーボックス」。日本でも一時話題となった、いわゆる「赤ちゃんポスト」を巡る物語です。『万引き家族』の姉妹作品のような印象を受けるのは、そこに共通する「血縁のない家族」「母になれない女性たち」「子供時代を奪われた人々」が描かれているからかもしれません。まさに現代を描くその作品が目指した着地点とは、いったいどんなものだったのでしょうか。是枝裕和監督に伺いました。
『梨泰院クラス』に『愛の不時着』……
人気ドラマに引っ張りだこの名優が勢揃い!
韓国で人気の日本映画、中でも別格の人気を誇る是枝裕和監督。最新作『ベイビー・ブローカー』は、その是枝監督が手がけた初めての韓国映画です。
「ペ・ドゥナ、ソン・ガンホ、カン・ドンウォンと一緒に映画を作るのが本当に楽しみでした。申し訳ないくらいすごいメンバーで、『それぞれ主演で1本とれるのに、3人集めやがって』って言ってる人も韓国にはいるんじゃないかと思います。それ以外の方々は、コロナの間に韓国ドラマ見ながら自分で気になった俳優さんたちに声を掛けました。『梨泰院クラス』『愛の不時着』『椿の花咲くころ』……それなりに色々見ましたが、一番はこの作品にも出てもらったイ・ジウンさんの『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』。後半はずーっと泣きっぱなしでした」(是枝裕和監督、以下全て)
もし韓国ドラマのファンならば、映画の中で「あ、この人は……!」という俳優さんに何人も気づくはず。例えば『梨泰院クラス』のトランスジェンダー女性役が印象的だったイ・ジュヨンと、リュ・ギョンス。『恋のスケッチ 応答せよ1988』のイ・ドンフィ。『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』のソン・セビョクとパク・ヘジュン。『愛の不時着』のキム・ソニョン。「この人が出てきたら絶対に面白い!」という、ドラマで引っ張りだこの名脇役だらけ。「みなさん、出たいと言ってくれた」と語る是枝監督には、韓国の俳優たちからの絶大な支持も感じられます。
大人の事情で「早く大人に……」と
子供らしさを奪われた子供を描きたい
そのイ・ジウン演じる母親ソヨンが、教会の「ベイビーボックス」に赤ちゃんを置き去りにしたことから、映画は始まります。やっぱり……と翌日戻った彼女は、赤ちゃんがひそかに連れ出されたことを知り、犯人の二人組サンヒョンとドンスを突き止めます。子供のいない夫婦に赤ちゃんを横流しするブローカーで、ソヨンは「売り上げ」の山分けを条件に、彼らの養父母探しの旅に同行することに。文字で書くと何かものものしさが漂いますが、マヌケで気のいいブローカーと強気な母親のデコボコトリオが、海辺を行くオンボロのバンに同乗する旅は、妙にのどか。特にソン・ガンホ演じるサンヒョンが、かいがいしく赤ちゃんの面倒を見る様は、それだけで微笑ましく思えます。
「おむつを替えてるソン・ガンホが見たいって思ったんですよね(笑)。赤ん坊のおむつをかえたり、ベビーバスに入れたりしながらセリフ言うのってすごく大変なんです。それができる人ってなかなかいないんだけど、彼は『遠い昔にやってた』と言って、最初からちゃんとできましたね。それほどやってるとは思えなかったけど、でもあの雑さが手慣れた感じにも見えて、逆によかったです」
その名を世界に知らしめた『誰も知らない』以降、是枝監督の作品には常に「子供」が描かれています。
「『誰も知らない』の柳楽優弥君とか、『海街diary』の広瀬すずさんが演じたような、大人の事情で子供時代を奪われている子供が好きなんです。僕自身がそうだったからじゃないかな。特別な事情があるわけじゃないんだけど、『早く大人にならなければ』と思っていた、子供らしくない子供だったので、なんとなくそこに目が行っちゃうんですよね」
サンヒョンと組むドンスは、まさにそんな子供時代を過ごしてきた青年です。施設で母を待ち続けるうちに大人になった彼が、時にソヨンを「無責任」となじるのは、息子を捨てる彼女に自分の母親を投影してしまうから。でもよく考えてみたら、生まれた子供をひとり抱える年若い彼女もまた、子供時代を奪われた存在といえそうです。
韓国ドラマの名優たちが勢揃い!『ベイビー・ブローカー』
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