寝室にいればいいという勘違い


産休のタイミングなどを考え、真弓さんから頼んで年子で産んだ二人の子どものため、教育資金をきちんと貯めようと導入したお小遣い制。生活費、子どもに関わることには同額ずつ出したお財布から、日常にそれぞれかかるお金は6万円ずつのお小遣いから、となったそう。

その頃から、良平さんが目に見えてイライラしはじめました。そして真弓さんが、共同の生活費財布からお金を勝手に使っているんじゃないかと疑心暗鬼になり、一円単位でレシートと突き合わせるようになったのです。

実は結婚当初から、もう一つ真弓さんが違和感を持っていたことがありました。それは良平さんが家にいるほとんどの時間を寝室で過ごすこと。リビングに出てくるのは食事の時くらい。子どもが産まれてからも、寝室でスマホを見ているか、ゲームをしているか。コミュニケーションを拒絶されているように感じ、何度もリビングで家族の時間を過ごそうと提案しましたが、いつの間にか戻ってしまうそうです。

 

そんな状況では、他愛もない話をしたり、気持ちを伝えたりする時間を取るのは困難です。すれ違いは次第に大きくなりました。フルタイム勤務で家事と育児をこなすのは容易ではありません。少しでも家事を手伝ってほしいと寝室から出てきた時に伝えると、なんと彼は激昂してダイニングの椅子を蹴り倒したと言います。

 

「会社での落ち着いた姿からは想像もつかない行動でした。夫が怖いという気持ちを抱いたのはそれが初めて。そして、ある事件が起こりました」

その頃、少しでも家計の助けになるように、お弁当を作っていた真弓さん。

「彼は、冷めた弁当が嫌で自分はいいというので、私だけ作っていたんです。そうしたら『俺は社員食堂でお小遣いから昼飯を買っているのにお前の弁当は家計費からじゃないか。泥棒だ』って言うんです。カチンときましたが、もうその頃にはお弁当を作ってあげる優しさは残っておらず、私は夕飯をあなたの半分くらいしか食べていないけど同額負担している。お弁当は夕飯の残り物を詰めてるだけ! と宣言し、頑なに守っていました。もはや何の争いなのか……」

そしてある日、子どもの夏休みに有給休暇を取って遊園地に連れて行ってあげた真弓さん。文句を言われたくなくて、子どもたちのチケットは生活費から、自分のチケットは自分のお小遣いから出したそう。

「案の定その夜、『お前は好きで仕事を休んで遊んだのだから』と嫌味を言われ、レシートを確認されました。子どもたちを喜ばせたくて仕事を調整したので、ズル休みみたいに言われたのは心外でしたね。そして目ざとく、『自分のファストフード代、まさか生活費から出していないだろうな?』と言いがかりをつけてきたのです。それはクレジットカードを使えなかった店で建て替えたぶんを調整しただけだと伝えても、信じていない様子でした」

その夜。夜中に真弓さんが目を覚ますと、闇の中で良平さんが真弓さんのハンドバッグを漁っていたそう。真弓さんは衝撃のあまり、体が動きません。

「翌朝、財布を確認すると、なんと私の個人財布から1000円札が抜かれていたんです。その日、会社で会費収集があり、寝る前に1000円札があるなと確認したので間違いはありません。恐らく、ファストフード代を生活費から出したと思い込み、調整したつもりなのでしょう。日頃ピリピリしている関係性なので、もう盗られたという嫌悪感しかありませんでした」

離婚した今となっては、彼と同じレベルで争ってしまったことを後悔していると真弓さんは言います。「もっとおおらかに、相手を立ててあげる気持ちがあれば違う展開になったと思います。きっと私が追い詰めてしまった部分もあるんですよね。私じゃなければ彼もあんなふうにならなかったかも。でも当時は、小さな二人を育ててフルタイム勤務、余裕がありませんでした」とのこと。

二人とも仕事をしていることが多い現代の夫婦関係には、従来うやむやにすることも多かった家計の問題が顔を出します。男女平等を謳うからには、家計も双方で担うのは当然です。しかし現実には、家事・育児を急に平等にすることも、男女が同等の収入を得ることも簡単ではありません。そこにどう折り合いをつけるのかは、工夫が必要なのは間違いないでしょう。


後編では、ついに離婚をしたいと告げたときの夫の意外な反応、そして彼がお金に固執した理由について伺います。
 


取材・文/佐野倫子 
構成/山本理沙

 

 

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