あえて“余白”を残した映画。自分の人生とつながってほしい。


「今まで手掛けた映画では、1から10まで説明して理解してもらうという手法を取ったこともありましたが、本作はあえて余白を残した作りにしています。その余白の部分で、観客自身の人生とつながってほしいと思ったからです。物語というディテールがあって、その中に“謝罪”や“感謝”といった部屋がある。その中に入ってもらって、その人の人生といかにつながっていけるか。そんな映画にしたかった」

注目のタイ映画『プアン/友だちと呼ばせて』監督インタビュー「バッド・ジーニアスの大ヒットが教えてくれたこと」_img5
ロケ地のひとつ、パタヤの海に佇むウード(アイス・ナッタラット/左)、プーンピリヤ監督、ボス(トー・タナポップ)。ウード役のアイス・ナッタラットは余命宣告を受けた役に合わせて17kgも減量。母が大金持ちと結婚して裕福なボス役のトー・タナポップは増量して役に臨んだ

丁寧な心理描写で、若かりし頃の友情や恋愛、ほろ苦い思い出が散りばめられた青春映画がベースとなり、そこにヒットナンバーが詰まったラジオ番組のカセットテープやヴィンテージカー、カクテルといった心憎い小道具が光り、ノスタルジックな色調に彩られた本作。観光ではなかなか訪れることのない、タイ各地の風景も見どころの一つです。訪れたことがなくても、どこか懐かしい雰囲気が感じられ、タイという国の魅力が再認識できるはず。

「本作のもう一つのテーマとして、『タイへのラブレター』という意味も込めています。私は地方に行って脚本を書くのが好きで、有名な県ではなく、むしろ小さな県が好み。そこにはみんなが見逃していたような素敵で美しい場所があったりするからです。そういったシンプルな美しさを映像に残したかった。タイは決してバンコク、プーケット、チェンマイだけではないのです」

 

近年、日本ではタイBLドラマやT-POPなど、タイのエンターテインメント人気が高まっていますが、映画業界に身を置くプーンピリヤ監督としても、うれしく思っているそう。

「人はそれぞれ自分のストーリーを持っていて、映画製作者としてはさまざまなストーリーを提案することで、そこで観る人とつながったり、好きになってもらったりしています。BLドラマもそのうちの一つで、日本でも人気があるのはすごくいいこと。この作品も、タイでは『ウードとボスはBLのような関係にならないの?』という意見が結構ありました。ポスターのように男性二人のビジュアルを見ると、つい期待してしまう人たちが一定数いるようです(笑)。このストーリーにはたまたまそういった要素はないのですが」

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ボス役のトー・タナポップ(左)は、タイの人気俳優。ウード役のアイス・ナッタラットはモデルとして海外でも活躍

本作のエンディングを飾るのが、タイの国民的シンガーソングライター・STAMPが本作のために書き下ろした「Nobody Knows」という楽曲。やさしいメロディと「誰にも分からない 流れる歳月は どこへ 僕たちの物語は どこへ」という歌詞が心に染み入ると同時に、T-POPの魅力も垣間見ることができます。

鑑賞後は、プーンピリヤ監督の言うように、映画のストーリーや登場人物と、自分の過去の思い出や経験、人生を重ね合わせたくなるはず。この先の人生がどこへ向かうのかは自分にも、誰にも分からないけれど、全ての経験や関わってきた人にそっと感謝したくなるような作品です。
 

<映画紹介>
『プアン/友だちと呼ばせて』(原題:One For The Road)

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余命宣告を受けた青年が親友に頼んだのは元恋人たちを巡る旅――
永遠の〈友(プアン)〉でいるために明かされた秘密とは? タイ発、ノスタルジーが胸を締め付ける青春物語。
8月5日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー


監督:バズ・プーンピリヤ『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
製作総指揮:ウォン・カーウァイ『花様年華』『恋する惑星』
脚本:バズ・プーンピリヤ、ノタポン・ブンプラコープ、ブァンソイ・アックソーンサワーン
出演:トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、プローイ・ホーワン、ヌン・シラパン、ヴィオーレット・ウォーティア AND オークベープ・チュティモン
配給:ギャガ

2021年/タイ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/129分
字幕翻訳:アンゼたかし/監修:高杉美和
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取材・文/吉川明子
構成/坂口彩
通訳/高杉美和
 

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