その場所の環境に適応した者が生き残る


出口さんが過酷な状況でも楽観することができたのは、この「知識の力」にあったのでしょう。しかも、その知識は脳に関することだけではなかった模様。出口さんは自身のメンタルを支えた知識として「ダーウィンの自然淘汰説」も挙げています。

「要するに、何が起こるかは誰にもわからないし、賢い者や強い者だけが生き残るわけではない。ただその場所の環境に適応した者が生き残る。そこでは運と適応が大切で、運とは適当なときに適当な場所にいることです。それは、人間にはどうすることもできない運命といえますが、その場所に居合わせたとき、どんな適応ができるか。すなわち、どんな意欲を持ってどんな世界にしたいと思って動くかは、自分の意志次第です」

 


流れ着いた場所で一所懸命頑張るだけ


さらに、出口さんは人類学者レヴィ=ストロースの名著『悲しき熱帯』のなかから、「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」という一節を引き合いに出します。厭世的にも聞こえるフレーズですが、人間は自分たちが思っているほど偉大ではないことを頭に入れておけば、心の置きどころが決まり、現状に合わせた楽しい生き方ができる、ということを出口さんは伝えたかったのかもしれません。

 

「世界の存在は人間の意志や認識によって認められたものではなく、世界は勝手に始まり勝手に終わるものだとレヴィ=ストロースは考えていたのです。実際、地球の生命は星のかけらから誕生し、やがて地球の水が涸れたときに絶滅すると、すでに解明されています。

たまに偶然を引き寄せるのも能力のうちである、あるいは運をコントロールしないといけないなどという人がいますが、そんなのはウソに決まっています。将来何が起こるかは誰にもわからないのなら、川の流れに身を任せるのが一番素晴らしい。人間にできるのは、川に流されてたどり着いたその場所で、自分のベストを尽くすことぐらいです。

だから川の流れに流されて学長にたどり着いた以上は、教育のことを一所懸命勉強して頑張るし、病気で倒れたら、復帰に向けて一所懸命リハビリに取り組むだけのことです。

なにより明確なゴールに向かってただ真っすぐに進んでいく人生より、川に流され、時には岩にぶつかったり濁流にのまれたりしながら、思いもよらない展開のなかで一所懸命生きていくほうが面白いに決まっています」

困難な状況を面白がれるかどうか。それが、前向きになれるかどうかの分岐点なのかもしれませんね。この考えに対しては「本当に心から楽しめるのか?」「強がっているだけでは?」という懐疑的な意見も出てくると思いますが、出口さんはそれを見越したように、決定打となる言葉をつづっています。

「何度も繰り返しますが、人生は楽しまなければ損です」