転倒しない自宅環境を整えるには?


風呂上がりに足を滑らす。高いものを取ろうとしてバランスを崩す。何もないところでつまずいて転びそうになる。そんなことってありますよね。でもそれで転倒したら人生を狂わせてしまいかせません。転倒→ケガ→骨折→入院→フレイルで、一気に老化が加速する方は少なくないのです。

山田先生の『最高の老後』には米国疾患予防管理センターによる「高齢者の家で転倒を防止するリスト」が紹介されています。50代の私が気になるものを抜粋しました。

【床】
家具の位置(歩行の妨げになるなら移動・取り除ける落差はないか)
小さめの滑るラグマット・カーペット(マットをテープで固定)
雑誌・本・コードなど乱雑になっている(ひっかからないよう整理整頓)

【階段・廊下】
・夜トイレに行くまでの足元が見えるか。高齢男性は頻尿傾向がある(フットライトを設置)
・手すりは付いているか(できれば両側に)

【キッチン】
・よく使うものを高い場所に収納していないか(使用頻度の高いものは手の届きやすい位置へ)
・高いところのものを取るとき不安定な椅子を使っていないか(安定した脚立を使う

【風呂】
・浴槽周りは滑りやすくないか(滑り止めマットの活用、手すり取り付け)

【寝室】
・ベッドサイドランプは手の届く位置にあるか(夜中に起きた時にすぐに灯りを付けられる位置に。高齢者は特に寝起きの感覚は鈍い、視力も弱い)

(『最高の老後「死ぬまで元気」を実現する5つのM』より一部引用)

自宅環境でもこれだけ改善できることがあるのですね!

「若い世代のつまずきは、歩き方、靴などシンプルな理由が多いです。まずはそこをチェックして変えてみるだけで解決することがあります。高齢の親御さんの場合は、上記のようないろんな問題が重なっている場合が多いので、最近つまずいたり、転びそうになったときがないかお話を聞いて、あれば長年住んでいるお家でも、環境の見直しを提案していくのがいいと思います」

 

歩行器や杖のリスクは!?


山田先生にもうひとつ伺いたかったのは、本来なら歩行を助けるはずの杖や歩行器のリスク。実は、私の父の最初の転倒は歩行器での散歩の際に、道路のちょっとした溝に車輪が引っかかって起きたのです。頭をかばうためについた右手親指を骨折し、そこから一人暮らしは危険だと、介護施設でショートステイに。
ヘルパーさんが何でもやってくれる、3食何も考えなくても届く、ベッドに寝ている時間が長くなる。筋力は落ち、ちょこちょこ転倒するようになって、最後の転倒で頭部を打ち、硬膜下血腫で意識不明のまま2週間後に亡くなりました。
前日まで、普通に私と仕事の打ち合わせをしていたので、無念でなりません。健康長寿医学に生涯をささげ、100歳までを目指し頑張っていたのに、転倒で命を失うとは想定外でした。杖や歩行器はどういったものを選べばよいのでしょうか?

「実は今のところ杖や歩行器で転倒が減ったというデータはなく、靴と転倒という点に関しても、靴底が薄くかたい方が転びにくいという程度のエビデンスしかありません。何が転倒を減らせるのか、今後イノベーションが必要な領域だと思います。私自身、残りの人生では、転びにくい靴、転んでもケガしにくい靴づくりにもエネルギーを注ぎこみたいと考えています」

なんと! 山田先生の「最高の靴」に期待が膨らみます。
転ぶのはケガだから、傷を処置すれば、治るというイメージでは大間違い。転倒からはじまる骨折、入院、老化の加速が「高い致死率」を招くと意識し、個人も家族も社会も、「転倒予防」に力をいれていかなければ、「最高の老後」は過ごせないと思います。
 



取材・文/熊本美加