そもそも動物は「死」を理解していない

 

人間は年をとったり、重い病気で弱ったりすると、「もうすぐ死ぬのかな。」「死ぬのはこわい。」と考えたりします。しかし、動物たちはそう考えません。ネコがひっそりと死ぬのは、「体を休ませよう」と落ち着ける場所にいったら、力尽きてしまったというだけです。

そもそも動物は「死」を理解していません。ゾウは群むれのなかまが死ぬと、死骸のまわりに集まります。「なかまの死を悲しんでいる」と思われがちですが、これは誤解です。なかまが動かなくなったので、「いつもとちがう。どうしたのかな?」とふしぎがっているだけなのです。

 

高度な頭脳を持ったチンパンジーでさえ、死をわかっていません。赤ちゃんが死ぬと、母親は死骸がくさってボロボロになっているのに、引きずって歩いています。死をかなしんで、子どもを手ばなしていないかのように見えますが、じつは「自分のものだから、ほかのチンパンジーにわたしたくない」という、よくばりな気持ちからくる行動です。死をなげき、かなしむのは人間だけなのです。

今泉忠明(いまいずみ ただあき)さん
1944年生まれ。ほ乳動物学者。東京水産大学卒業後、国立科学博物館でほ乳類の分類を学ぶ。現在、日本動物科学研究所所長。『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)をはじめ、著書、監修書多数。近刊(監修)に『EX MOVE まぼろしの生きもの』(講談社)。

『いきものとくらすための7つの約束』
著者:今泉 忠明 講談社 1540円(税込)

シリーズ累計195万部超を誇る『ざんねんないきもの事典』の監修を務めた今泉忠明先生が、人間が身近ないきものに対して抱きがちな「誤解」や「思いこみ」を説明します。動物を飼っている人にとっては、ペットの行動の本当の意味を知り、より良い関係を築くための助けとなるでしょう。
 


構成/さくま健太