「収入の差」があれば、育児はすべて母親の仕事?


麻里さんは広告代理店勤務で、仕事はかなり多忙。育休が明けてからは、0歳の息子さんを朝7時半〜夜20時半まで預け、仕事と育児を両立する生活が始まりました。

「ワーママ生活は思った以上に大変でした。早朝に起きて息子を保育園に送り、延長ギリギリまで預けて仕事をこなす……とにかく忙しく猫の手も借りたいのに、夫はほとんど使えませんでした。

喧嘩になると決まって言われるのは、『収入の差』。稼ぎは俺の方が多いんだから、育児家事は私がやるのが当然、と思っているんです。と言っても、その差は私が残業できれば埋まる程度のものですよ。夫はそれを理由に悠々と仕事をして、好きなタイミングで飲みに行ったりしていました」

この「収入の差」を理由に、妻に理不尽な負担を強いる夫婦の話は非常によく聞きます。しかしながら、妊娠・出産・育児……など、女性のキャリアはまるで障害物競争を走るようなもの。

結果的に収入に差があったとしても、それは思いやりで埋められるものではないのでしょうか。そもそも夫婦2人の子どもであるのに、母親側に負担が寄りすぎるのは、家族として悲しく感じます。

特に麻里さんの場合は、さほど金額に差はなく、加えて仕事も激務となれば、本来であれば家事も育児もすべて分担して良いはず。

「睡眠時間が削られ、日々の細々したやることも多すぎて。朝の保育園の送迎くらい手伝ってと夫に頼んだら、渋々承諾したものの、本当に『送迎』しかしないんです。朝ごはん、息子の着替えなどは『お前の仕事だ』と言わんばかりに、頑なにやらない。

私が早朝から出勤しなければならない日は、前日の夜から登園着を着させ、食べやすい朝ごはんを作り、持ち物はすべて玄関に揃えて用意し、夫がただ連れていくだけで済むように準備していました。

休日出勤のときも、夫は息子を遊びに連れて行くこともせず1日中家に篭っていたようで、家の中はグチャグチャ。パンパンになったオムツを履いてiPhoneを眺める息子の傍で、彼はソファに寝転び野球観戦をしながら、クタクタで帰宅した私が夕飯を用意するのをただ待っているんです」

なぜそこまで協力を拒むのか。理解に苦しみますが、ご主人は「育児=母親の仕事」という確固たる信念を持っていたよう。

 

「ほとんど協力しないだけでなく、夫は育児に無関心でした。保育園選びや習い事などはもちろんすべて私任せですが、休日にどう遊ばせるか、どこに出かけるか、何を食べるかなども、何か聞いても『何でもいい』しか返事が返ってこない。

物理的なことだけでなく、精神的にも『一緒に子育てをしている』感覚がないんです。息子を可愛がったり、自分の気が向いたときに遊ぶ程度のことをして本人は十分にやったような顔をしていましたが、可愛がるだけじゃ子どもは育ちません」

 

そんな中、多忙を極める麻里さんの元に、保育園から連絡が。

「息子が、精神的に少し不安定だと相談されたんです。はっきりとは言われませんでしたが、毎日13時間以上、小さいうちから長時間預け続けたことが原因なのでしょう。先生に『もう少し息子さんと一緒に過ごす時間を作れませんか?』と提案されました」

そうなると、麻里さんにとっての優先順位はやはり息子さんです。悩んだ末、麻里さんは保育時間を短縮しました。

けれど仕事内容を変えたわけではないので、麻里さんは定時に息子さんを迎え、お世話と寝かしつけを終えてから自宅で溜まった仕事をこなすようになります。

さらにこの時期、たまたま大きな案件を任されてしまい、麻里さんは仕事と育児を両立するため、3ヶ月ほど睡眠が2〜3時間という日々が続いたそう。その間、何度かご主人に相談したものの、やはり彼は聞く耳持たず。疲れ果てた妻に手を差し伸べることはありませんでした。

「ストレスが極限まで達して、夫への愛情も尊敬も完全にゼロになりました。何か言うと相変わらず『稼ぎがちがうから』の一点張りでしたが、『なら、もう1円もいらないから出て行って。私もずっと働いているし、あなたに養われたことは一度もない。もう離婚しよう』と言ってやったんです」

家庭とは本来、家族が協力し合い、安心して暮らせる場所を築くもの。これほど妻側にだけ負担が偏ってしまっては、「もう夫はいらない」と切り捨ててしまいたくなるのは当然です。

けれどその後、ご主人は離婚には反対。仕方がないので麻里さんは「卒婚」を提案し、ご自身の人生を生きることにします。

にも関わらず……なんと数年後、麻里さんは第二子を作ることに決めるのです。来週公開の後編では、その大きな決断に至るまでの経緯をお話しいただきます。


取材・文・構成/山本理沙
 

 

 

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