まさかの志望校変更。その理由に、母は……?


「え!? 海浜幕張学園? あの共学最難関の? でも千葉だから……ここから通学したら1時間半以上かかるよね?」

「うん……私もそう言ったんだけど……絵里花もいろいろ調べたうえで言ってるみたいで」

1週間後の夜。多香子は弱り切って、マンションのラウンジで肩を落としていた。招集された明菜と成美が当惑して目をしばたたかせる。21時半、30分だけという制約はあるが、さっと集合できるのが同じタワーマンション仲間のいいところ。バータイムは、カウンターにバーテンが入り、1杯500円で夜景を見ながらカクテルを飲むことができる。

「でも、とりあえず1月に受験したい、っていうだけだよね? お試し受験てことでしょ? 2月に都内の学校に浮かれば、そっちに行くならば、受けるのはまあいいんじゃないかな?」

成美の言葉に、明菜もうんうん、と頷きながらシャンパーニュを飲む。

「それが……第一志望として受けたいって。偏差値は全然足りてないんだけど、もしも合格したら海浜幕張学園に行きたいっていうのよ」

「え!? 女学院は!? ……うちは、あんなことがあったし、偏差値が今となっては足りないけども、最後まで悔いが残らないように挑戦しようって話してるよ。マミは3人で通いたいって頑張ってる」

成美がよほど驚いたのか、珍しく早口でまくし立てた。多香子は途方に暮れてますます肩を落とす。

「もちろん受けるけど……じつはね、絵里花、高校の時に留学したいっていうの。それで、その間に留年しないで単位を交換してくれる制度のある学校を調べたみたいで。おまけに大学も北米に行きたいっていうのよ……そんなこと、私、1回も勧めたことないのに、一体どこで調べてきたのか。それで、なんとかっていう国際的な資格がとれる高校を調べたみたいなの」

「それで海浜幕張学園がヒットしたのねえ。確かに、あそこの英語教育は凄いらしいし、海外の大学に進学する生徒も多いんでしょ? テレビで見たことある。いいじゃないの! 2月のラインナップに影響が出るわけじゃないし、親はダメ元と思えば。うっかり受かったらラッキーよ!」

 

それはそうなんだけど。多香子はうつむく。

 

北米に高校で留学したり、大学で東部の私立などに行くことになったりしたら、授業料や生活費は日本とは比較にならないと聞く。数千万は用意をしなくてはならないだろう。

果たして、中高一貫の私立に通ったうえで夫はそのお金を出すことができるだろうか。経営状況においてコロナ禍のダメージは相当に大きく、回復できたとしても数年はかかるだろう。

直前になって、やっぱり無理、というくらいならば、最初から難しいと伝えるべきだろう。絵里花にも、そして友達にも。

「お金が、心配なの」

今まで絶対に口にしなかった言葉が、多香子の唇からぼろりとこぼれた。