カバンを受け取りながら、必死に頭を巡らせる。今着替えたばかりの、一見シンプルなオフホワイトのカシミアのニットワンピースは、実はめったなことではクリーニングのタグをとらない。体の線を上品に出すこの服は、私のお気に入りだった。しかし男の人の目にはわかりやすい派手さはないから、同窓会に着ていくのに不自然はないはずだ。

「参ったよ……なんだか胃が痛くてさ。このところずっと調子が悪かったんだけど、昼めしでちょっと重いものたべたら戻しちゃって。もう今日は早退してきた」

「え? 戻した? 晃司さん滅多にそんなことならないのに……胃腸炎かなんかかな、とりあえず、手洗いうがいをしたら、横になって。何か飲む?」

「うーん、あったかいお茶、持って来てくれないか。着替えて、少し横になるわ……」

晃司さんの顔色は、明らかに良くない。なんでよりによって今日、という苛立ちをどうにかなだめながら、急いでキッチンに戻ってお湯を沸かす。幸い、支度した夕飯は和食だったので、回復したら食べてと言えば問題ないだろう。

湯のみにたっぷり入れたお茶と、ミネラルウオーターのペットボトル、魔法瓶に晃司の好きなゆず茶をつめて、寝室に持っていく。

「ありがと。……なあ、今日、外出しないで、うちにいてくれよ……なんかさ、変なんだよ、最近」

 


因果応報


男の勘、というのだろうか。あるは、夫の勘。私は、暖房と加湿器のスイッチを入れる作業に気取られるふりをしながら、動揺を鎮めた。

「さあ、これでばっちり、少し寝たほうがいいわ。ごめんね、今夜は単なる新年会じゃなくて、サークル仲間同士のちょっとした婚約パーティなのよ。ほら、覚えてない? 私の結婚式にも来てくれた紗季……ちょっと幹事みたいなこともしてるから、ドタキャンはできないのよ、申し訳ないけれど」

行く行かないという議論はムダで、半ば義務であることをアピールした。我ながら、真っ赤な嘘にしては上出来だ。

「なにか欲しいものある? お夕飯は支度できているわ。お風呂も沸かしておくね」

ちらりと時計を見る。15時30分。ヘアサロンは16時からの予約だ。あと10分で出発しなくては間に合わない。下着や服は入念に選んで身に着けておいて良かった。バッグと靴は、さっと出して行けばいい。

 

「ほんとに行くのかよ? 薄情だな……。俺さ、じつは2、3カ月前からちょっと体調が変なんだ。忙しくて病院行ってないけど……会社の健康診断は、半年前に行ったし、ヘンな病気ってこと、ないよな? そういえばあの診断結果、見た?」

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ありふれた日常に潜む、怖い秘密。そうっと覗いてみましょう……
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