なりたいのは水よりも「紙コップ」「髪の毛の先」


編集部 ちなみに、Vanessaさんは実際に羽生選手をリアルで見たときどうでしたか?

Vanessa 自分が“定点カメラ”になった気持ちでした。現場にいる感覚がないというか。スモールメダルセレモニーがあったんですけど、リンクよりもすごく間近に見られて。そのときの私、「日本一」って書いた扇子を持って踊ってました。すずめ踊りってやつ。

ヒオカ 意外と冷静!

Vanessa なんか色々通り越して、もう冷静でした。

ヒオカ 私は生で見たことがないんですけど、「マスカレイド」とか生で見たら、喀血するんじゃないかって。かつてマイケル・ジャクソンを見て失神したファンがいたと思うんですけど、私もそうなる気がして。これ見てほしいんですけど……。

 

(「マスカレイド」の冒頭、片手で顔を覆うシーンを見る)

ヒオカ やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

Vanessa ハーーーーーーーーッ!!! ここですね!! へーーーーーー!! ここですよね。

 

ヒオカ (これをリアルで見たら)立っていられる自信がないです。最後、手袋をバンッて投げ捨てるシーンがあるんです。そのときもう、会場が「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」って!

Vanessa これ、日に日に羽生くんもテンション上がってきたのか、投げ捨て方が大胆になっていくんです。

 


ヒオカ 本当にアイスリンクに叩きつけるんですよね。

Vanessa あと、別のアイスショーで、水をかぶったときもありましたよね。

ヒオカ ありました! 紙コップで。

Vanessa KAT-TUNですよ! 「Real Face」ですよ! ギリギリでいつも生きてる羽生結弦だから! 初日が一番水の量が多くて、びしゃびしゃびしゃって!!

 

ヒオカ それを見に行った友だちがいたので後日話したんです。そのとき私が、「うわぁ、私このコップになりたい」って言ったら、「いやそこは水の方だろ」ってツッコまれて。「何言ってるの?! 水だったら羽生くんにかかっちゃうじゃん!」って言ったらすごい変な空気になりました(笑)。お前こそ何言ってるんだ? って思われたかもしれないけど、私は羽生くんの演技を演出する1つの道具になりたいんですよ。コップか水か。この微妙だけど大きな違い。ファン心理、伝わらないかなぁ~!!

Vanessa 本当に! 水なんて! けったいですよ!! 私は毛です。髪の毛の先になりたいです。いずれ切られる存在。

ヒオカ 切ない! でもわかる!! 近づきすぎず、でも見守っていたいという。

編集部 ヒオカさんが紙コップで、Vanessaさんが毛に見えてきました。

Vanessa 令和になってからの「ファンタジー・オン・アイス」では、友だちと3人で(当時の菅官房長官が持っていた)「令和」っていう紙を模して「羽生」って書いて掲げてたんです。そしたら羽生くんが「あ、令和ね」っていう反応をしてくれて、テレビでもそれがちょっと映ったんです。もう嘘じゃない! 自分が見たのは嘘じゃない! って、それ見た瞬間から瞳孔開きっぱなしでした(笑)。

心なしか誇らしげな表情のVanessaさん。

ヒオカ 羨ましいぃぃぃぃぃぃ。私だったら人ならざる声が出るかも。潰れたカエルみたいな声。

対談後編、「どれだけ偉大でも「神格化」はしたくない。羽生結弦選手のプロ転向に、私たちが今思うこと【Vanessa×ヒオカの推し語り】」は1月31日公開です!

 

『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』
編集・販売:CCCメディアハウス 2640円(税込)

2022年夏、プロ転向を表明したフィギュアスケーターの羽生結弦選手。本作では全528点におよぶ報道写真と当時のニュース原稿と共に、羽生選手のアマチュア時代の軌跡を辿ります。輝かしい功績とその裏にあった知られざる苦悩、その両方を克明に写した本書は、資料的価値はもちろん、これまでのステージに感動の花束を投げ、プロ転向後のステージに感謝の気持ちを贈りたくなる1冊。


取材・文/ヒオカ
撮影/水野昭子(講談社写真部)
構成/金澤英恵