50代後半、「下る」ことを自分ごととして楽しみ、味わう

両親の介護に奔走していた頃に、「老い」について学ぶべく一田さんが手に取った本たち。(『人生後半、上手にくだる』P62より)

「もっともっと」とより高い山を目指して、これまで登り続けてきたけれど、そして「下る」ことは、なんだか悲しくて、敗北のような気がして、認めたくない、と思ってきたけれど、面白がりながら下ることだってきっとできるんじゃないか? そう考えると、これから先にどんなことが起こるのかが、楽しみでたまらなくなってきました。

人は「当事者」にならないと、なかなか目の前の事実を認識することができません。もう若くない。体力が落ちる。できないことが増えてくる。そして、何より人生の残り時間が少ない。そんな50代後半になって初めて、「下る」ということを、自分ごととして考えるようになります。

 

さらに「自分ごと」になったとき、それを「否定」ではなく「肯定」で考え始めます。「今」の状況に抗えば抗うほど、どんどん不幸のスパイラルに入っていきます。そこから抜け出すための唯一の方法が、「すべてを肯定する」ということなのだと思います。

できなくたっていいさ。稼げなくたっていいさ。シワができたって、体力が落ちたって仕方がないさ。その代わり、今まで持っていたものを手放してもなお、幸せでいられる方法を探すようになります。

ギンガムチェックのワンピースに、白のリュックを合わせた一田さん。「歳を重ねた今の装いは、“私は私のままでいい”と思うためのプロセス」と、ファッションとの付き合い方を教えてくれます。(『人生後半、上手にくだる』P1より)

そんな幸せこそ、「条件」に左右されることなく、ずっと人間を支えてくれる、本物の力になるのではないか? そう思っています。だから、私はそんな宝物を探して、磨いて、輝かせ、しわくちゃのおばあちゃんになっても、「幸せじゃの〜」と言っていたい。花が咲き終わったその後の時間をじっくり味わってみたいと思うこのごろです。

『人生後半、上手にくだる』
著者:一田憲子 発売:小学館 発行:小学館クリエイティブ 1650円(税込)

雑誌「暮らしのおへそ」を手掛ける、一田憲子さんのエッセイ。あと2年で還暦を迎える一田さんが、人生を上手にくだるには? を考える中で見つけた、歳を重ねた自分の育み方、年老いた親との距離感、人生後半の友達づくりなど、上昇曲線を求めるだけではない「幸せのなり方」を思考します。山をくだる足取りが軽くなるような、温かな知恵が詰まった1冊。


撮影/黒川ひろみ
構成/金澤英恵