「それを考えるのが校長の仕事」の一言で実現した2万9800円のハーバード留学

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夏休みが終わり2学期を迎えたある日、一人の生徒が校長室を訪ねてきました。ボストンから帰ってきた友人にえらく刺激を受けた様子でした。「でもな」と彼女はいいます。「うちにはおカネがないねん。そやから、松竹梅のコースつくってや」。

 

ボストンには行きたい。でも、60万円も払って短期留学できる余裕はない。だから、すしやうなぎみたいに、松60万、竹40万、梅3万のコースをつくれというのです。3万なら出せると。「いくらなんでも、3万円でアメリカは無理やろ」そう答えると、「それを考えるのが校長の仕事ちゃうの」と叱られました。

そこで考えたのが、国内でのキャンプです。3万円で生徒をアメリカに連れていくのは無理でも、一人3万円ずつおカネを集めれば、10人ぐらいならアメリカの大学生を日本に招待することはできる。その学生たちにリーダーになってもらいワークショップなどのプログラムを実施すれば疑似留学体験ができる。そんな逆転の発想で国内キャンプを企画しました。

実施したのは翌年の1月で、招待したのはアメリカのハーバード大学やイギリスのロンドン大学などの大学生8人です。大学生たちには、「卒論をもってきたら、日本の高校生や教員にフィードバックしてもらえるから、きっとためになる」といって、参加をよびかけました。経費節約のため8人には保護者や先生たちの家にホームステイしてもらいました。参加した生徒は40人。参加費は2万9800円。3万円じゃないところが大阪です。

プログラムは、海外の有名大学のリベラルアーツ(教養科目)のワークショップを日本人高校生向けにカスタマイズしました。招待した学生の研究テーマをもとに、生徒が興味を示したものと参加者をマッチングさせて少人数のグループに分けます。グループごとに大学生が研究しているテーマや卒論の話を聞き、ブレインストーミングでテーマを掘り下げ、それをもとに各自で思考を整理してマインドマップをつくります。さらに生徒たちがリサーチしてレポートを作成し、最終的にプレゼンテーションするというプログラムです。それを3日でやりましたから、かなりハードでした。

参加した生徒たちは、短期間で見違えるほど変化しました。まず、英語を話すことへの気後れがなくなりました。積極的に議論に参加し、自分の考えを発表することへの躊躇いも吹っ飛びました。みんな元気になって挑戦を恐れないようになったのです。

ちなみに、「それを考えるのが校長の仕事」とぼくを叱ってくれた生徒は、もちろん国内キャンプに参加し、卒業後は国立大学に入学しました。