見たくなかった義両親の行動


お付き合いしている彼にプロポーズされたとご両親に伝えた由真さん。最初は非常に驚かれたといいますが、由真さんを家に送るときに落ち着いた物腰であいさつをしたり、手土産を持参したり、遅くなると電話を入れたりと、さすがの心遣いにご両親も次第に賛成するように。

「少し急だし、本当はゆっくりお付き合いしてからでもと思うけれど、ふたりがそういう気持ちなら……」と、結納を承諾、指定のホテルで顔合わせとなりました。

「しかし、そこでの彼のご両親の振る舞いに、私の両親は驚いてしまって」

修さんのご両親は、由真さんのご両親よりも20歳近く年上だったことも関係するのか、終始上から目線の発言を繰り返しました。「家の格が違うのに幸運ですね」とも口にして、両親を絶句させます。また、海外のどこそこに行った、会員制のレストランで歓待された、など消費行動を自慢する話題に終始したそうです。

由真さんのご両親は、堅実な公務員ご夫妻で、お仕事をしながら由真さんと妹さんを不自由なく育て、大学を卒業させています。富裕層とは言えないかもしれませんが、温かく、素敵なご家庭であることは由真さんを見れば想像できます。

結納という大切な、しかも親族同士初対面の場所で、一方的な自慢話をすることに違和感を覚えたという由真さんのご両親。しかも、会の最後に、修さんのご両親は『これチップよ~』とむき出しの1万円札を財布から出し、これ見よがしにスタッフに配り始めたというのです。

 

心付けという意味で、結納をサポートしてくださったホテルの方にお金をお渡しするのはもちろん喜ばれることとは思いますが、「お金があるちゃんとした家はね、こういうときはケチらないんですよ。うちがそちらの分も配っておきましたから」と由真さんのご両親に言い放ったことで、両家の雰囲気は非常にギクシャクしたものになったそう。

 

帰宅後、「なんだか不安を感じる。せめてもう少し結婚を延ばしたほうがいい」とご両親は由真さんを説得しました。しかし由真さんは、チップをサービス業の方にお渡しするのはいいことだし、言動は行き過ぎているが、ジェネレーションギャップもあるのだと反論して、大事にするのを避けようとしました。

お話を伺っていると、この時点で嫌な予感がよぎります。問題があり離婚をしたご夫婦の回想を伺うと、たいてい他人がきくと「?」と疑問符がつく事件が兆しとして起こっているもの。

しかし当事者は、正常バイアスが働くのでしょうか、それを「なかったこと」にしてしまうのも無理からぬことなのかもしれません。とくにそれが結婚という一大イベントの時は、台無しにしたくないという気持ちから正しい判断をするのが難しいことも。

由真さんと修さんは、その3ヵ月後にご結婚されました。由真さんが23歳、修さんが40歳直前のときでした。

ご結婚を機に、修さんはご実家のある湘南エリアで、クリニックを開業することになりました。新妻になった由真さんに、修さんはこう言い放ちます。

「お前、病院を辞めて。そして俺の開業をサポートして。理事長はお母さんだから、クリニックの正社員看護婦として働くわけだし、給料をやるよ。本当は身内だから必要ないけど特別に。手取り17万、通勤0分、終身雇用だぞ、よかったなあ」

そもそも、大好きな看護師という仕事のスタートを切ったばかりの由真さん。病院を辞めるつもりなど毛頭なかったので、晴天の霹靂でした。まだまだ大きな病院で勉強したいことだらけだし、急に修さんのクリニックで働いても、看護師として満足なスキルがないと由真さんは主張しました。

「なに言ってるの? 開業準備は雑用だらけなんだよ。WEBサイトの整備や受付、スタッフの募集に採用、教育。もちろんしばらくはお前しか看護師はいないから、調子に乗った聞き分けの悪い患者をなだめるのも仕事。看護スキルがどうとかより、とにかく全方位に働いてくれ」

メイン看護師として、クリニックの開業をサポートできる。きっといい経験になる。ましてや院長は尊敬する夫なのだから……。

由真さんは、呆然としながらも、必死でそう自分にいいきかせたといいます。

これがのちに明らかになる「夫が妻に求めた3つの条件」のうちの一つでした。

① 看護師資格を持ち、最低限の給与で際限なく働いてくれること。

1日10時間以上クリニックの現場に立ち、スタッフを取りまとめ、システムや人を管理し、帰宅後は掃除や3度の食事の支度をこなしたという由真さん。それでいて、17万円以外には生活費が振り込まれず、家庭の食費や光熱費、通信費などはそこから捻出する必要があったといいます。

つまり給与という体裁の、必要な生活費です。仮に由真さんが同じだけほかの病院で勤務すれば、看護師として働く分だけでも25万円~30万円にはなったはずと言いますから、この仕組みは一方的な都合だと感じます。

それでも、もともと人をサポートすることにやりがいを感じる由真さん。夫はともかく、患者さんやクリニックのスタッフを懸命にサポートしながら、業務に加えて診察券のデザインやWEBサイトを作成、経理などを必死で覚えていきます。

そして無我夢中の3年が経った頃、次なる夫の要求が始まりました。

後編では、雇用主となった夫のエスカレートしていく行動と妻への要求、そして搾取されつづけた妻のサバイバル&リセット術を伺います。
 

写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙

 

 

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