――これは弔電だ!
何かの間違いだろうが、イニシャルのみでは確かめようがない。時間もない。僕は、とっさに、これを見せるのは式が終わってからで充分だと判断した。あるいはイタズラとして処分すればいい。とにかく人生で一番輝かしいセレモニーの直前に、こんなものを見せて混乱させる必要はどこにもない。
僕は怒りが湧き上がるのを感じながら、その弔電を封筒に戻し、僕の式次第のバインダーの一番下に挟んだ。何が起こっても、式を守るのが僕の仕事だ。
僕は気合をいれて、新郎新婦の控室に向かう。廊下を足早に移動していると、すでに受付を終えたゲストたちが集まり始めていた。
ふと、その中の黒いワンピースの女性に見覚えがある気がして、足を止める。……あのロングヘアは。
はっとして振り返っても、もう女性は見当たらない。頭の中に散らばった『パズルのピース』がフラッシュバックする。
不吉な祝電が送られた、本日の35歳のご新郎様と、若いご新婦様。
立花様の「彼は2年経って、ちゃっかりここを選んだ」「式の全体像がつかめた」「これで計画を立てやすい」という言葉。
そして弔電のイニシャルは、Y.T。
「……立花、ゆかり様」
ぼくはぐるりと周囲を見回す。
「事情」のまったくない結婚なんてない。だからこそ、ひとは未来を誓うために、門出を祝うために結婚式をする。絶対に悲しい日にするわけにはいかない。セレモニーを守るのが僕の仕事。
そしてできれば、傷つき、怒りに震える彼女がさらに闇の方へ行くのを止めたいと思うのは傲慢だろうか。
ナイトウェディングは、この上なくドラマチックに、今始まった。
空港のトラブルに巻き込まれた男性の、奇妙な様子とは……?
春の宵、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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構成/山本理沙
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