「親孝行は道理」への苦しい挑戦と、母亡き今の心境

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なお、本エッセイの中で青木さんは、読者の方からの「母」のお悩み相談にも回答しています。その中で印象的だったのが、「母とこのまま距離を置いたままでいいか」というお悩みへの回答。

 

病気になり、ホスピスに入った青木さんのお母さん。友人に「青木さん、最後のチャンスだよ。お母さんと仲直りしておいで」と言われ、お母さんが亡くなるまでの3か月間、何度もお母さんの元へ通ったのだそうです。その原動力になったのは、「最後のチャンスだよ」と後押ししてくれた友人が言った「親孝行は道理である」という言葉でした。

苦しみながらも“親孝行”にチャレンジした青木さんは、お悩みへの回答をこう締め括っています。
 

 母が亡くなるとき、わたしは母を嫌いではなくなりました。母が亡くなって数年、不思議ですが母のことをどんどん好きになっている自分がいます。親が好きだということは、ラクなことなんですね。これはわたししかわからないことですが、過去、母を嫌いだった記憶までなくなっていきました。健忘症でなければ(笑)。

 そして、世の中で一番嫌いな人と仲直りできたのだもの、誰とだって仲直りできる。そんな希望が持てました。
「親孝行は道理」
 そうなのかもしれません。

――『母が嫌いだったわたしが母になった』より


母親のことが好きになれるのは、今日じゃないかもしれない。数年後かもしれないし、数十年後かもしれない。それでも「親孝行は道理である」に突き動かされた青木さんのように、いつかもしかしたら、嫌いじゃなくなる日がくるかもしれない――。母と娘の楽しい会話と、母と娘の苦しい思い出。その両方がないまぜになった本作は、誰にも言えない親子関係のひずみをそっと手当てしてくれるような、そんな優しさがあるように思います。 
 

『母が嫌いだったわたしが母になった』
著者:青木さやか KADOKAWA 1650円(税込)

「母が嫌い」だった青木さやかさんが、中学生になる娘さんとの関係性、そして母親との関係を見つめるエッセイ。母親が嫌いだったからこそ感じた子育てが始まる前の不安、「ママ大好きっ子」に育った優しい娘との何気ない会話、今なお鮮明に残る母娘の確執など、複雑な感情や愛情を温かな視点で掬い上げた、心にじんわり沁みる一冊。親子にまつわる悩み相談では、青木さんが経験したからこその飾り気のない、本音のアドバイスが語られます。


撮影/後藤利江
構成/金澤英恵