1年の半分は働いて、もう半分は好きなことをやる

 

――では、藤さんにとって仕事のない時間というのはどういうものなのでしょうか。

僕の場合はね、意味があって仕事しないんですよ。演技なんてしょっちゅうやってたら飽きちゃう(笑)。たまにやるから面白いんです。とは言え、映画会社にいた頃は仕事を断るなんてできません。ありがたく頂戴して何でもやらせていただいて。それが僕のエチュードとしてものすごく良かったんですよ。

でも日活を辞めたときに、よし俺はもうフリーになったんだから、これからは自分のやり方でやりたいと思いましてね。そしたら結局は、1年の半分ぐらいは働いて、もう半分は好きなことをやるという働き方になりました。

 

――その頃の日本ってモーレツな働き方が推奨されていた時代だと思います。そう考えると、藤さんの生き方は令和的というか、今の感覚に近い気がしますね。

そうですね。旅したり、トレーニングしたり、スポーツにのめり込んだり、楽しく過ごしていましたよ。

――そうした仕事しない時間が、俳優・藤竜也をどう育てていったと感じていますか。

仕事というのは、お腹を空かせるからいいんですよ。

――どういうことでしょう。

あんまりにも仕事をしていないとさ、最終的に自分が何者なんだかわかんなくなってくるでしょ。で、周りもおいそれと「次のお仕事は……?」と聞けなくなってくる (笑)。それが、お腹が空いた状態。もうね、早く仕事がしたい、演じたいという欲でいっぱいになる。その頃、仕事の話が来ると、行くぞ! という感じになる。そのくらいがいいんです。


――じゃあ、今回の『それいけ!ゲートボールさくら組』のオファーも。

そうですね。これはコロナの頃にお話をいただいて。僕自身もコロナに罹患しないよう気をつけて生活していたから、飯食いに行きましょうなんて話もなくなったりして、寂しい思いをしていたわけでね。そんなときに、勢いのある楽しそうな本が来たんで、これはやらせてもらいたいなと思いました。

――本作は、ゲートボールが題材です。

やったことがないから、ゲートに球を通すのもなかなかできなくてね。しかも最初は監督がCGを使うからと言ってたんで、てっきり誤魔化してくれるのかと思っていたら、現場でちゃんとやってくれてって言われてね(笑)。それもだんだん10mくらい先にあるゲートにちゃんと入れてくれって話になるんです。CGでうまくやるっていう話はどこに行ったんだと思いました(笑)。


藤竜也 Tatsuya Fuji
1942年、中国・北京生まれ。1962年に映画『望郷の海』でデビュー。以降、数々の映画ドラマに出演。1973年のドラマ「時間ですよ」の謎の男・風間役で人気を博し、1976年の映画『愛のコリーダ』では第1回報知映画賞主演男優賞を受賞。ほか、主な出演作に映画『野良猫ロック』シリーズ、『野獣を消せ』『海猿 ウミザル』『台風家族』『龍三と七人の子分たち』、ドラマ「大追跡」「プロハンター」「やすらぎの郷」などがある。近年は、2021年の連続テレビ小説「おかえりモネ」のヒロインの祖父役でも話題に。

 

<作品紹介>
『それいけ!ゲートボールさくら組』

5月12日(金) ロードショー

出演:藤⻯也
石倉三郎 大門正明 森次晃嗣 小倉一郎
田中美里 本田望結 木村理恵 / 赤木悠真 川俣しのぶ 中村綾 直江喜一
特別出演:毒蝮三太夫 友情出演:三遊亭円楽 / 山口果林
監督・脚本・編集:野田孝則
配給:東京テアトル
©2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会


撮影/塚田亮平
取材・文/横川良明
構成/山崎 恵