「美しい服は、裏地も美しい」

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新聞の「読者投稿欄」を読むのが大好きです。特に、子供たちや若い世代の「声」には、はっとさせられたり、ほろりとさせられたり。普段、見過ごしたり忘れたりしている何気ない出来事が、むき出しの感性で捉えられ、「真実」や「正義」がみずみずしい言葉で綴られているのを目にすると、心が揺り動かされるのです。私にとっては、日々硬く重くなりがちな「大人の心」をしなやかに整える心のマッサージ、心のストレッチなのかもしれません。中でも、ことあるごとに思い浮かべる言葉が、これ。「美しい服は、裏地も美しい」。ある「言葉のコンテスト」で賞を獲得した、中学2年生の女の子のひと言でした。

 

洋裁師である祖母にミシンの使い方を習っているとき、祖母が呟いた言葉であること。ピアノコンクールに向けての練習が辛く、ノルマを軽くした結果、決勝に進めなかったこと。決勝に進んだ友達の力強い演奏に心動かされたこと。祖母の言葉を思い出し、美しい服同様、その裏で自分をごまかさずに取り組んだ努力があって初めて、美しい演奏が叶うと気づかされたこと。そして「自分にしかわからない努力の証である綺麗な裏地を編んでいきたい」と。彼女は手を抜いたことを後悔していました。中学生にして、自分にとっての「本物」と「偽物」の定義を、身を以て知ったのかもしれません。この文章に触れ、痛いところを突かれたと思った大人は私だけではなかったはず。

経験を積み重ねるほどに、まわりにばれないよう手を抜くことがうまくなって、そんな自分をまあいいかとごまかすことが当たり前になっている気がしていました。一方、心のどこかで、いつしっぺ返しが来るかとひやひやしていて、その「ぎりぎりセーフ」みたいな後ろめたさが澱のように溜まっていたのも事実。だから、彼女の言葉にどきりとさせられ、背筋が伸びる思いがしたのです。大人に表面だけの美しさは、ありえない。美しい服であるために、美しい裏地を目指したい。美容? 運動? いや、生活そのものを。だしを取るとか、床を拭くとか、いや、もっともっと取るに足らないことから、始めたいと思うのです。勤勉に、誠実に。他人の目には見えない、でも誰より自分の心の目が見ていると肝に銘じて。

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どのページを開いても「顔を作る言葉」に気づきや感動が生まれる本書は、カバーを外してもおしゃれだと評判です。是非、紙の書籍でいつも手元に置いてくださいね。

『顔は言葉でできている!』
松本 千登世(まつもと・ちとせ) 講談社 1540円(税込)

大人の美しさをつくるのは、顔立ちより「顔つき」です。ミモレでも人気のビューティエディター・松本千登世さんが、あなた自身の顔つきを育てる「宝物」を発見できるようになる言葉たちを集めました。

 


構成/大槻由実子