腕はいいけどコミュ力ゼロの料理人と、腕はそこそこだけどコミュ力抜群の料理人、どっちがいい? よくある医者のたとえをもじってみました。身も蓋もないことを言えば、腕が良くてコミュ力も抜群な料理人がいいですよね。料理人にコミュ力は必要なんだな、と笑いながら感じてしまう『難しいほうのサイトーくん』1巻が5月12日に発売されました。
ここは有名料理人を多数輩出している名門・大鹿高校食品調理科。そこで野心を抱く一人の男がいました。その名もサイトーくん。
将来は高額所得者向けの調理人になりたい彼には完璧な「ヘキサゴンプラン」があったのです。
それには、まずはこの学校を首席で卒業すること。今日の里芋六方むきが上手くできた生徒は、一般公開の店に出ることができる。ここから、彼の華麗なるキャリアのスタートはここからはじまる⋯⋯!
里芋の当番に選ばれたのは「サイトー」。
即、手を挙げるサイトーくんでしたが、「簡単なほうの」と言われます。
え???
なんとこの学年には「サイトー」が二人いたのです。メガネをかけているヘキサゴンプランの彼は「難しいほうのサイトーくん」でした。
この二人の性格は対照的。
「難しいほうのサイトーくん」は、脳内で考えたヘキサゴンプラン通りに人生を進めるため、クラスメイトに心を許さず、「愛も友情もいらん」と孤高の学校生活を送ろうとしています。
しかし、「簡単なほうのサイトーくん」は、クラスメイトに親切で「難しいほうのサイトーくん」にも気軽に話しかけてきます。
しかも彼の家は、三つ星フレンチ料理店。「難しいほうのサイトーくん」いわく、「店があるというのは城を持っているようなものだ」ということで⋯⋯まあ簡単にいうと彼にとっては羨ましい存在ですね。
「難しいほうのサイトーくん」は彼にギラギラとライバル心を抱くのですが、なんだか相手の方が一枚上手。コミュ力=愛で超えていってしまうのです。そんな「簡単なほうのサイトーくん」の名前は、斉藤愛! まさに、愛。
一方、「難しいほうのサイトーくん」は齋藤前途という名前⋯⋯ぷっ、「前途」多難か!
こちらの彼は理論派でいかにも賢そうなのですが、所詮は高校生男子。ツメが甘いのです。そして、致命的に空気が読めないコミュ障! 一人で勝手に壮大な世界を作っちゃっているんです。
完璧だと思っているのは本人だけで、彼の真剣さが笑ってはいけないんだけど、おもしろい。まだ高校生なのに、すでに頑固職人のような雰囲気を漂わすサイトーゼントくん。
この後、クラスメイトが作った料理の感想で、周囲を凍り付かせてしまいます。周りは皆ライバルだ、と敵対心を持っているからこそ、相手に愛あるフィードバックができないのでした。
理論だけでは人の心をうまくつかめないのだぞ、サイトーゼントくん⋯⋯! と肩をつかんで助言してあげたくなる彼。
ですが、周りのクラスメイトが優しくて彼をいじめたりせず、見守っているような雰囲気なのがほっこりしていいんです。今のところは。
前途多難な「齋藤」と愛ある「斉藤」、という構図ですが、これは単純に「料理は愛か理論か?」「どっちが勝つんだ?」というストーリーではないんです。そういう二項対立的な考え方はゼントくん的なのでして、本作は「どっちも持っているといいよね!」というスタンスなのです。
ゼントくんが「調理はコミュニケーション」であることを知り、彼のヘキサゴン(六角形)プランに「コミュ力=愛」が加わって、ヘプタゴン(七角形)プランになったら、もうそりゃもう完璧な料理人になれるはずです。それは前途多難なのですが。
他者とのコミュケーションを上手に取るという、彼にとっては高い壁を乗り越えて、ひと回り大きくなったゼントくんが立派な料理人になれる日まで、彼の右往左往を母親目線で見守っていきましょう!
『難しいほうのサイトーくん』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『難しいほうのサイトーくん』
辻󠄀恵 (著)
料理×青春×友情=コメディ⋯⋯?
名前の漢字が簡単なほうの【斉藤くん】
名前の漢字が難しいほうの【齋藤くん】
著名料理人を多数輩出している名門・大鹿高校食品調理科を舞台に、対照的な性格の【ふたりのサイトーくん】が出会う!
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
作者プロフィール
辻󠄀恵
三重県出身。デビュー単行本「かりそめのあい」(KADOKAWA)。
Twitterアカウント:@_slice007_9