男子四天王のひずみ


うちの校舎には男子四天王と呼ばれる優秀な生徒がいる。その筆頭が、達也に引っ張られていた小柄な亮介。あいだに2人入って、達也の位置は4番目。

便宜上四天王、なんていうけど、もちろん4人の個性も成績も異なる。達也はムラがあり、算数はずば抜けてるけど暗記もの全般がだめ。天才肌といえば聞こえはいいけど、コツコツやるタイプじゃないから最難関は難しいかもしれない。

一方のトップ、亮介は突出した科目はないが、4科目ともゴリゴリに仕上げてくるタイプ。男子には珍しい秀才タイプの最高峰といったところ。来年の「星取り頭」になるのは間違いない。校舎長も期待している、うちの校舎のエースだった。

ところが先週のテストで問題が発生した。

達也と、亮介の答えが、社会と算数の2科目でほとんど同じだったのだ。

 

「カンニングだな。達也のやつ……」

テスト採点終了後の校舎会議で、校舎長が苦々しげにふたりの答案用紙を掲示した。

「いや、そうとも限らないんじゃないですか? 達也と亮介の偏差値帯はたいして変わらないし」

クラスを担当しているいわば担任的役割の俺は、そんなはずはないと思いながらも一応の反抗を見せる。

 

「ばか、お前、達也がこんなに社会ができるわけないだろ。見ろ、大問3満点だぞ。この難易度なら、達也はせいぜい半分くらいのはずだ。亮介の満点は普段のあいつなら当然だ。

算数なんて間違ってるところまで同じ答になってる。334分の7なんて同時に出て、しかも間違ってるのはおかしい。試験の日、達也と亮介、通路を挟んで隣だったな」

カンニングは、じつは中学受験塾においてまったく珍しい話ではない。しかし、問題は6年生の秋というこの時期。最後の追い込み、正念場でカンニングするというのは非常にまずい。一応達也は四天王の1人だし、塾にとっても「損失」になる。ましてや小学生男子、ここで悪い方向にいくとずるずるといってしまうような危うさがあった。

「もう時間がないからな。一気に達也と親子面談してお灸を据えるか」

おいおい、そんなことしたら、表面張力ギリギリまで張りつめた中受生の親が爆発するぞ……。校舎長の言葉に俺はわざとのんびりとした声音で反論する。

「いや、大丈夫、この件は担任として僕が預かりますよ。しっかり対処しますから任せてください」

そんなわけでこの1週間、改めて達也を観察していた。そして俺の中では、ひとつの仮説が固まりつつある。残念ながら、達也を呼び出さなくてはならない。

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夏の夜、都会の怖いシーンを覗いてみましょう…。
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