文字や数字に色がついて見えたり、味に形を感じたり。一つの感覚刺激から複数の感覚が引き起こされる共感覚。『言葉の獣』の主人公の一人は、言葉が「獣」に見える共感覚を持っていました。

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『言葉の獣』(トーチコミックス)

詩の世界をもっと深く学びたいと願う少女・薬研(やげん、あだ名で「やっけん」と呼ばれる)は、詩の授業後、授業内容に納得できないと言いに行きます。すると、先生は彼女の詩への熱心さに対し『頑張ってね』と最後に言いました。
その言葉にモヤモヤする彼女は、いつも何かをノートに描いているクラスメイトの東雲に「いつも何描いているの?」と声をかけます。東雲は言葉を「獣」の姿で見ることができる共感覚の持ち主で、やっけんがふと漏らした「綺麗」という言葉の「獣」を見せてくれました。

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東雲は「獣」の形を見ると、他人の言葉の真意がわかるのだそう。人は気持ちをより正しく伝えるために言葉を使うけれど、それは無意識のうちに刷り込まれてきた言葉に、意味を押し込めているだけなのだと彼女は言います。

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同じ言葉でも、発する人やシチュエーションでそこに込められた気持ちは違う。言葉の獣を見たい、と言うやっけんに東雲は、さっき先生から言われた『頑張れ』という言葉の獣はどんな姿なのかを考えてごらんと言います。

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本来「頑張れ」とは前向きな言葉のはずなのに、残酷だと感じたやっけん。それはなぜなのか、考えるうちに彼女は虎の姿になり、言葉の獣がいるという「言葉の生息地」に入り込んでいました⋯⋯。

 

そこに現れたのは「頑張れ」の一般の総意である獣。お腹がもふもふのクマでした。

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でも、やっけんの『頑張れ』は違う姿のよう。さて、どんな獣で、その真意は何だったのでしょうか⋯⋯?
そこはぜひ本編で。

本作は、共感覚の人の見ている世界をやっけんとともに実感できるユニークな設定ですごくおもしろいんです。同じ「ごめんなさい」と言われても、なんかモヤモヤする時がある、スッキリしないな、というのは誰しも覚えがあるでしょう。それは、その言葉の表面的な意味と、裏にある相手の気持ち=言葉の獣が違うのを無意識に感じているからだったんだ⋯⋯! とハッとします。

2話以降、二人が降り立つのは、ツイッターという生息地。東雲は、「言葉の樹海みたいな場所」と言って怖がるその場所とはこんな感じ。

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バズりツイートに誹謗中傷も獣として登場する。異様な状態がこう視覚化されているのもおもしろい⋯⋯。

そして、ツイッターという場を選んでいるのが興味深いのです。
SNSの中でも、特にスラングや「ツイッター構文」と呼ばれる決まった言い回しが多いんですよね。それらに自分の気持ちをむりやり押し込めている人たちもたくさんいる場で、この二人がどうやって言葉の獣を探していくのかが気になります。

言葉の獣たちは、ふわふわでかわいいのもいれば、グロテスクな姿をしたものもいます。

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他人から何か言われてモヤモヤっとした時、この言葉の獣はどんな姿をしているのだろう、その言葉の一般的な意味の獣とどう違うだろうか、と考えてみると、東雲のように相手の真意が感じ取れるようになれそう。

⋯⋯と、こんな文学的な内容を、コミックだからこそできる表現で試している『言葉の獣』。普段、コミックは読まないなという方にこそおすすめです。特に、東雲が谷川俊太郎さんの『生きる』と出逢った時のことを描いた4話は、本が好きな人には是非読んでもらいたいです。

 

『言葉の獣』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『言葉の獣』(トーチコミックス)
鯨庭 (著)

人の発した言葉を”獣”として見ることで、その言葉の「真意」を捉えることができる共感覚の持ち主・東雲(しののめ)。言葉が好きで、詩に強い関心を持ちながらも、そのことに向き合いきれていないクラスメイト・やっけん。
二人はふとしたきっかけから、東雲の持つある目的のために協力し合うことに⋯⋯。
 

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作者プロフィール:
鯨庭

2018年「千の夏と夢」でKADOKAWA「ハルタコミックグランプリ」を受賞。20年『呟きの遠吠え』にて単行本コミックスデビュー。その他の作品に『千の夏の夢 鯨庭作品集』「ばかな鬼」。現在、トーチweb(リイド社)にて初の長編連載作品『言葉の獣』を連載中。
Twitterアカウント:@KUJIRABA

 

 


構成/大槻由実子
編集/坂口彩

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