65歳以上の就業率は25.1%


現在の日本では、年金が受給されるのは原則65歳からで、多くの人はその年金受給までのつなぎとして働くという選択を取っています。65歳を過ぎて年金を受給しても、それだけでは生活が厳しいという人もいるかもしれません。

総務省統計局によると、65歳以上の高齢就業者数は18年連続で増加し、2021年は過去最多の909万人になりました。就業率は25.1%で、65歳以上の4分の1が働いていることになります。

まだまだ高齢者とは言い難い65~69歳の就業率も10年連続で上昇し、2021年には50.3%に。70歳以上は5年連続で上昇しており、2021年は18.1%となっています。この数字からも、近年は多くのシニアが働き、またその働き先もあるとも言えるでしょう。

職種的には「卸売業、小売業」が130万人と最も多く、次いで「農業、林業」104万人、「サービス業」103万人、「医療、福祉」101万人となっています。さらに役員を除く雇用者を雇用形態別に見ると、非正規の職員・従業員が75.9%を占めており、そのうちパート・アルバイトの割合が52.2%と最も高くなっています。

ちなみに、リクルートの調査研究機関「ジョブズリサーチセンター」が55〜74歳の男女を対象に行った「シニア層の就業実態・意識調査2023」では、70代以上まで働きたいと答えた人は7割超。人生100年時代、お金のためだけに働くのではなく、仕事をすることで体を動かしたい、新たな人間関係を築きたいという人も多いのではないでしょうか。

 

再雇用と再就職の違い


再雇用とは、勤務先の再雇用延長制度を利用して、定年後も同じ会社や同系列のグループ会社で働き続けること。それに対して再就職は、一度勤め先を退職し、就職先を探して別会社に就職することです。これらは、退職後に勤務する会社が同じグループ系列か、まったく別の法人なのかという点で異なります。

再雇用は、定年前から今後の仕事が決まっているという精神的な安定や、これまでの経験やスキルが活かせること、社会保険や雇用保険の継続という点ではメリットです。しかし定年前の賃金や立場が保証されない、同じ仕事なのに基本給が低くなる、といったことがデメリットとしてついて回ります。

再就職は、これまでとは違うまったく新しい仕事と人間関係ということで、自身のキャリアの再出発という意味でも気が引き締まる思いがするでしょう。今までの仕事はすべてやり切って満足していたり、職場に不満があって環境を変えたい人に向いています。ただし、自分の求めている再就職先が見つかる保証はなく、新たな環境がストレスとなるリスクもあります。
 

65歳→70歳まで再雇用は延長に?


2021年4月から高年齢者雇用安定法が一部改正され、70歳までの就業確保措置を取ることが企業の努力義務となりました。改正前は再雇用の期限を65歳とする企業がほとんどでしたが、この改正によって再雇用期限が70歳に延長されると考えられます。

なお、厚生労働省が2022年12月に発表した「高年齢者雇用状況等報告」によると、70歳以上まで働ける制度のある企業は39.1%という数字が出ています。

長く働くことを重視する人にとって、今は働きやすい状況になっているのです。これらのことを踏まえて、定年後も収入を継続させる方法を見ていきましょう。
 

ケース① 現在の会社で再雇用してもらう


再雇用の場合、給与は会社から指定されることが多く、働きたいのであればその金額を受け入れることがほとんど。金額的には定年前の5~7割くらいがスタンダードです。前述した厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」では、60歳定年企業において過去1年間に定年になった人のうち、継続雇用された人は87.1%と比較的多くなっています。

相談者の美穂さんは、大手自動車メーカーの系列会社に勤めているとのことですが、美穂さんのように所属会社以外のグループ企業でも再雇用の受け入れ(グループ内雇用延長人材公募)がある場合、できれば定期的に募集を確認しておきたいところ。系列の他の会社で自分のスキルを活かしつつ、新たな環境で働くことができます。また、現在の職場で雇用延長をするより高収入を得られる場合もあります。
 

ケース② 別の企業に再就職


転職サイトやハローワークの求人に応募し、合格することが条件ではありますが、再就職の場合は賃金を自分で選ぶことができます。ただ、定年を迎えてからの転職は、かなりハードルが高いのではないでしょうか。転職に関しては、スキルや業績を取引先や知人にアピールすることができれば伝手を頼って移るという方法もあります。

なお、福祉系の仕事は高年齢でも正社員での募集が多いので、少しでも興味がある方は、社会福祉士や精神保健福祉士、保育士、介護福祉士などの資格を取得しておくのもお勧めです。資格取得に関しては、以前こちらの記事でも紹介しましたが、国の「教育訓練給付制度」を活用すれば、講座受講費用の20〜70%が支給されます。講座の具体的な内容は、こちらの「教育訓練講座検索システム」で検索してみてください。
 

ケース③ シニア起業


高齢者やペットの散歩サポート、ハンドメイド作品の販売など、起業と言ってもできることから始められるものも多くあります。シニアの起業に関しては、自治体や国から助成がある場合も多く、日本政策金融公庫が専門の融資制度「女性、若者/シニア起業家支援資金」を設けているほか、東京都でも「女性・若者・シニア創業サポート事業」として融資や無料の経営サポートを行っています。

起業は完全にリタイアしてから始めるだけでなく、副業での起業という方法もあります。昨今は、副業を許可する会社も随分と増えてきました(経団連の調査では、2022年時点で回答企業の53.1%が副業を認めています)。仮に再雇用で収入が減ったとしても、会社の給与は最低限の保険で副業が自分の成果と考えれば、本業の給与が多少低くても心の平穏を保てるかもしれません。

なお、定年前後の起業をサポートする「銀座セカンドライフ株式会社」では、無理せずやりがいを感じながらお金を稼ぐ「ゆる起業」をお勧めしています。

私、渋澤も現在59歳。もうすぐ60歳の定年を迎えるに当たり、今がひとつの分岐点のように感じています。登り続けた山もこれからは下り。上がった道とは違う道を選んで下れば、新しい風景を見ることもできる。その中に新たな発見や気づき、出会いがあるかもしれないとも思っています。


構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
イラスト/Sumi
編集/佐野倫子

 

 

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