MRI検査による脳ドック検査が推奨されない理由


山田:実は今日本では、医療における「賢い選択」をしようという「Choosing Wisely( チュージング ワイズリー)」というキャンペーン活動が行われています。日本だけでなく、アメリカやカナダ、イタリア、スイス、イギリス、オーストラリアなど各国で行われている、国際的なキャンペーン活動です。

そしてその団体が、「健康で無症状の人々に対してMRI検査による脳ドック検査を推奨しない」という声明を出しているんですよ。

 

編集:そうなのですね! 「健康で無症状の人々に対してMRI検査による脳ドックを検査推奨しない」ということは……。私はまだ受けなくても良さそうです。ちなみに、個人的には脳疾患のリスクなどを事前に知りたい気持ちもありますが、なぜ推奨されていないのでしょうか?

山田:健康で無症状の人々、つまり特別なリスクの見当たらない方々に検査をすると、見つけなくてよかったもの、たとえば治療しなくてもよかった異常が見つかることがあります。ただ、見つかってしまうと医師も患者もドキッとしますし、迷うなら治療をしましょう、という決断となり、無用な追加検査や手術に繋がってしまうことがあります。

編集:必要がないのに、脳の中の手術をするのは嫌ですね……。

山田:また、小さな脳動脈瘤は、写真の問題なのか、本当に脳動脈瘤があるのかがわかりにくいこともあります。多くの場合、過剰診断につながってしまう、ということもわかっています。本当はそこに病気がないのに、画像上の問題で、「あるかもしれない」とされてしまうのです。

もちろん、稀にきちんと「見つけなくてはいけないもの」が見つかり、それにより助かった人が出てくることもありますよ。「脳ドック」のおかげで命が助かったという方も、当然いらっしゃると思います。

そしてそれは当然なのです。どんな検査にも、リスクもベネフイットも絶対にあるんですよね。「脳ドック」にはリスクばかりでベネフィットがない、というお話をしたいわけではなく、常にその天秤を見ることが大切である、ということをお伝えしたいのです。

編集:なるほど……。

山田:たとえば、ご家族にくも膜下出血をご経験された方がいらっしゃらない中で、本当に「脳ドック」を受けるメリットがあるか? と問われた場合、広く一般の方には、この「脳ドック」を受けることは推奨されていない状況、ということです。

ただ、私から「受けないでください」とはもちろん言えませんし、最終的にはお金を支払う個人の選択、ということになります。とはいえ、学会やプロフェッショナルな組織で「脳ドック」がどう捉えられているか、というご紹介はできるかな、と思いました。

編集:そうだったのですね……。理解できました。ちなみに、「健康で無症状の人々」には脳のMRI検査は推奨しないとのことでしたが、それは何歳であっても、健康で無症状であれば検査をしなくてよい、ということなのでしょうか? 

がん検診の解説をしていただいたときは、40歳から推奨されている検査が増えていた印象なので気になっています。