「脳ドック」や検査の賢い活用法


山田:そうですね。「脳ドック」に関しては、どの年齢の方にも特別推奨はされていません。

編集:では、脳の画像検査を受けることが推奨される場合はどのような状況なのでしょうか? 

山田:たとえば、頭痛で病院を受診した方のご家族がくも膜下出血になられたことがあり、それに近い頭痛を訴えていらっしゃる、という状況下では、私の頭の中で、その方に脳動脈瘤がある、またはくも膜下出血が起こる「事前確率」が高まります。

私たち医師は、検査の前にこうした情報を引き出すため、たくさんの質問をさせていただきます。「とにかく手っ取り早く検査をしてほしい」という気持ちになるかもしれません。ですが、何も情報がないのに検査をするということはつまり、「事前確率」が定まらない、もしくは低い状況で検査をして、さらに検査をした後の「事後確率」もあまり高くないという状況になってしまう、ということなのです。

編集:なるほど。

山田:きちんと患者さんの話を聞いて、その方にくも膜下出血がおこる、脳動脈瘤がある「事前確率」を上げ下げしているんですね。その確率が十分下がれば検査の必要性はなく、様子を見ましょう、と判断ができます。

一方で「事前確率」が高まり、検査で陽性と出れば診断の確からしさが90%くらいに上がりそうだと見立てができた時に、やっと検査をする価値が高い、と判断するんです。これが検査の賢い使い方なんですよね。

このため、たとえばご家族に脳動脈瘤などの病歴があったり、その他の理由でリスクが高いと判断される方は、一般の方よりも「脳ドック」を受けるメリットが高いと考えられると思います。

編集:一般人の感覚としては、検査を受ける前に、検査を受けるべきかどうか判断してもらう、という視点はありませんでした! 40歳以上だから、と年齢などで自己判断せず、気になる症状があれば、検査を受ける前にまずは専門の先生に相談する、というのがよさそうですね。

山田:そうですね。ただやみくもに「不安だから」と検査を受ける前に、病気を見つける目的で行った検査で、見つけなくてもよいものを見つけてしまい、結果として金銭的・精神的な負担、追加検査の合併症などが生じるリスクもある、ということをイメージできるといいですね。

編集:世の中にはいろいろな病気、そして様々な検査があり、「健康のために」とついつい受けたくなってしまいます。予防や早期発見のつもりでも、リスクがあることも頭に入れて、賢い選択ができるように心がけたいと思います。本日もありがとうございました!

 

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構成/新里百合子

 


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