いつの間にか固定された「役割」


「同い年の夫婦なんですが、私は長女でちゃきちゃき物事を進めるほう。一方夫は4人兄弟の末っ子で、甘えん坊なタイプ。だからこそいいコンビね、なんて言われていました。

私も、昔は可愛い女の子でいないと、という謎の思い込みによりちょっと猫をかぶっていましたが、彼の前ではそんな必要もないとわかってからはとても楽ちんで。彼は男子の面子が、みたいなことはぜんぜん言わなくて、誰かにどんどん決めてもらえて話が進むならそれが一番、というタイプ。完全に役割分担ができていました」

そんなお2人は、次第にいずみさんが家のことを取り仕切るようになりました。もう少し便利なところに引っ越したいね、と2人で話すと、実際に物件を探してくるのはいずみさん。たまには海外旅行に行きたいね、と話すと、行先やホテルを決めるのはいずみさん。

もちろん晴馬さんも楽しむ気持ちはあるのですが、とにかく調べて決めるのはいずみさん、というのがフォーマットになっていったそう。

「そうこうしているうちにあっという間に30代になり、子どものことを考え始めるように。まずは晴馬の希望をしっかり確認しようと尋ねると『大丈夫! いずみのしたいようにしていいよ。君が欲しいなら、僕がプレゼントするさ』と言うのです。このとき違和感を覚えました。

説明するのが難しいのですが……そんな大事なことを丸投げするの? しかもプレゼントって、妙に上から目線だし、しかも『プレゼント』したらそれで終わりだと思ってる? って」

 

いずみさんはおそらく頭の回転が速いうえに行動力もあるタイプ。おそらくこちらのご夫婦は、一見一緒に歩いているように見えて、夫が妻の周回遅れのような現象が起きているのにお互いに気づいていないパターンかもしれません。それでも若い頃は問題なくやってくることができました。しかし人生の岐路が頻出する30代はそうもいきません。

 

これが友人関係であれば、若い頃にべったり一緒に過ごしていたものの、次第に環境の変化によって価値観や考え方の違いがあらわになるのはままあること。旧い友人と疎遠になってしまうことは誰しも経験があることです。

しかし配偶者との感覚のズレは生活、もっと言えば人生にダイレクトに影響します。これが難しいところだと取材中に感じました。

その後、「プレゼントを貰って」母になったいずみさん。

初めてのお産の夜、晴馬さんは友達とのキャンプに出掛けており、立ち会うことができませんでした。