背負ってきた重い荷物を脱いだ先にあったのは、虚無感と希望


——新刊の『BLANK PAGE』というタイトルは、立て続けにご両親を亡くされて心に空白ができてしまった内田さんの心模様が表現されています。もともと雑誌『週刊文春WOMAN』のエッセイ連載として始まった企画ですが、どんな背景で文章を書くことになったのでしょうか?

内田也哉子さん(以下、内田):5年ほど前、母が亡くなってそこまで時間が経ってない頃に、『週刊文春WOMAN』が創刊するのでそこで連載しませんかという話が舞い込みました。たった2人の女性の編集者で始める雑誌だと聞いて、その意気込みに感銘を受けたんです。だって、私の勝手な想像ですけど、本家の『週刊文春』って、作り手も読者も強くて怖い男の人ばかりで、出る杭は容赦なく打たれそうな会社だと思うでしょ(笑)。その中で、女性が立ち上がって新しい挑戦をしようとしている。当時の私は物理的にも精神的にも落ちつかず、虚無状態でもあったし、連載を引き受ける余力はないと思ったのですが……これも何かのギフトなのかもしれないと。人生の分岐点を迎えた今、自問自答しながら文章を書くことが自分には必要なのではないかと思って、編集部の意気込みに乗らせていただくことにしたんです。

 

——単行本には、職種も世代もバラバラなゲストと対談した内田さんの胸中が綴られています。“出会いの旅”をすることは最初から決まっていたんですか?

内田:『BLANK PAGE』というタイトル通り、コンセプトは決まっていなくて、空っぽのまっさらな状態でスタートしました。漠然とした不安や寂しさを感じているのだけど、どのように向き合えばいいのか分からない。それこそテストでよく見る「空白を埋めなさい」という問題の答えが分からなくて呆然としている状態でもありました。振り返ると、私は両親がとても強烈なキャラクターを持っていたことで、背負う荷物が多く、そして重かったんです。それが、母と父がいなくなってしまって、徐々に「ここからは荷物を少し降ろして、空っぽの状態で一歩を踏み出せるんじゃないか?」と思い始めて。大事な存在が抜け落ちてしまった喪失感と同時に、その空白を満たしていく旅路が始まったことに対する希望も感じていて。この連載では、まったく異なる心模様を持った人たちに出会いたいと思うようになりました。

 


——単行本には15人のゲストが登場しますが、会話中心の画一的なエッセイではなく、文章の構成や体裁に変化があることが特徴ですよね。

内田:「こうしなきゃいけない」というルールを設けていたわけじゃなかったので、取材の方法も文章の体裁もバラバラだったんです。対談を録音しなかった回もあるし、録音を聞かずに記憶に残っている言葉を頼りに書きたいことを自由に書いた回もあります。直接お会いするだけでなく、電話で話した回もあるし、オンラインで対談を実施したことも。コミュニケーションの形が違っても、親密な対話ができることを学びましたし、それぞれ心地が良かった。それは、ちょっとこじつけかもしれないけど、亡くなってしまった両親に対しても同じで。もう肉体はこの世にいないけれども、「今、母や父だったら、どんなことを言うかな?」と想像するだけで、心の中で対話ができる。旅路の過程でそんな気づきを得たことも大きな収穫です。