「優秀な人こそ会社を辞める」が今や常識

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——いまの若者はすぐ会社を辞める、ハラスメントに弱い、と言われますが、それはおそらく悪いことではないんじゃないかなとも思うんです。古屋さんの本では、
・「何か違う」と思ったら会社を辞める
・ハラスメントや不正があったら相談する
・ハラスメントや不正があれば会社を辞める

この3項目全てに「あてはまる」と回答した割合は、「10代が最も高かった」とありますが、これはとても正常な感覚だと感じます。また、本には「優秀な人ほど辞める」と書かれていますよね。会社にいられなくなるから辞めるわけじゃなく、むしろ「会社を見切る」。生存戦略と言えるし、どんどん自分が活躍できる場を取捨選択していく、みたいなニュアンスですよね。

古屋:実際データを取ると、会社を辞めるのは優秀な社員で、いわゆる「ぶらさがり社員」じゃない人たちが多い。そうした人は外で活躍できる機会があるから、転職するんですね。

——「すぐ辞める」の解釈が今と昔ではだいぶ違うのかなと感じました。

古屋:この10年ぐらいで常識が転換しているんです。「優秀な人は出世する。だから会社を辞めない」という時代から、「優秀な人は外でも活躍できる。だから転職する」という時代になった。かつての日本、2008年のリーマン・ショック前後ぐらいまでは、内部労働市場、つまり会社の中で出世して、年収も社会的地位も上げていく方がコスパが良かった。

今では、外部労働市場を使って年収を上げたり、自分のキャリアを豊かにする方がコスパが良いことがわかってきました。だから、別に上の世代の人たちが悪いとか、若手の常識がおかしいとかじゃなくて、単に社会環境の変化なんです。もっと言うと、労働市場の変化。シンプルに環境の違いですよね。

 

ロードマップ不在の現代への「不安」

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——部下を褒めるマネージャー層は多いけど、きちんとしたフィードバックをしていないというのもデータでも出ているそうですね。さらに「放置型OJT」になり、教育機会がすごく減っている現状がある、と。教育機会が削られてしまったのには、どんな原因があるんでしょうか。

古屋:端的に、若者がすぐ辞めちゃうからですね。教えないから辞めてしまう、すぐ辞めてしまうからさらに教えなくなる、という悪循環に陥りつつあるんです。すぐ辞めてしまう人に教える時間をかけるって、企業側からしたらめちゃめちゃコスパが悪い。

だから、教育しなくてもいい即戦力人材を中途採用で採った方が、企業はコスパが良いんです。ここ10年ぐらいで中途採用をする大手企業が急速に増えたのも、そうした背景があるから。大企業であっても、新卒入社でキャリアを全うする方式は、がらりと変わりつつあります。

今までは、40代になれば課長に、50代になれば部長になれる。そして年収はこれぐらいなる、というロードマップが明確だった。今の若者には、これがない。自分の会社がどうなるかわからない。事業部ごと外資に売られるかもしれないし、はたまた中途採用で入ってきた人が出世をして、自分は出世できないかもしれない。若手は不安でいっぱいなわけです