母のモヤモヤ


「あー、またBクラスか……」

13時になった瞬間にスマホで塾の個人ページにアクセス。これを見て、1度でいいから歓喜の声を上げたいと思い続けて、小1から5年が経った。ただの一度もそんな嬉しいことがないというのもある意味すごい。

14クラス中下から2番目。成績が底辺から浮上しない子を「深海魚」と呼ぶなどとネットで読んだときは、がっくりとうなだれた。まさにうちだ。

――このマンションの子はみんな中学受験をするし、すぐ満員になるってきいてとりあえず塾に通い始めたけど、レベルも覚悟も違うな……。一番人気の塾に入ればなんとかなると思ったけど、難しい問題、いつになったら解けるんだろう? もしかして、ずっとこのままの位置なの……?

リビングの時計を見ると、14時半。もうすぐ陽一が帰ってくる。この成績を見たらがっかりするに違いない。あるいはもう自分に対する期待を忘れてしまっただろうか。

通知音がしたのでスマホを取り上げると、このマンションで同じ小学校、同じ塾に通っているママ友のグループラインにメッセージが来ている。

 

『ねえ、うちの子まさかのα落ち! 5年生で初めてだよ、どうしよう、家庭教師か個別つけたほうがいいよね?』

『えー、杏里ちゃん珍しい! 調子が悪かっただけだよ。うちの康太はギリギリαキープ……心配よ~。あーあ、噂になってる教室に入れられればなあ。得意不得意を分析して、合格までのロードマップを作ってくれるんでしょ? 韓国ドラマで見た入試コーディネーターみたいなものよね。通わせてるゆかりさんがうらやましい! 結局さ、受験も情報戦。彼女みたいに情報もお金も持ってるママのお子さんが勝つようになってるんだよ~』

『あ! 噂はきいたことある! 紹介制だし、見込みのある子だけみてもらえるんでしょ? 料金もすごく高いってSNSで見たよ。うちは無理ねえ、仕方ないからお兄ちゃんもお世話になった個別塾にいくわ』

『あそこに入れるようなツテはないし、もう諦めるしかないよね。それよりも合格請負人として有名な家庭教師の順番がようやく回ってきたの、頼んでみようかな?』

――結局、みんなおいしい情報はちらつかせても、自分の子を入れるだけじゃないの……! 親切そうに見せかけて、結局ツテのないうちは蚊帳の外なんだから。

 


私は忌々しい気持でスマホを放り投げる。子どもの中学受験ごときで、こんなに劣等感を抱くようになるとは思いもよらなかった。参戦して以来、絶えず母親としての力を試され、誰かに値踏みされているような気がしてしまう。

この豪華なタワーの中、同じ空間に住んでいるからこそ、『違い』があぶりだされる仕組みなのだ。残酷なまでに。