才能に対する嫉妬が最も深い闇を持ってしまう


今回アカデミー賞の5部門でノミネート、カンヌ映画祭のパルムドール、ゴールデングローブ賞の脚本賞も獲得したのが『落下の解剖学』という作品。いわゆる法廷劇なのに全くありきたりではない、これまで観たことのない、経験したことのない緊迫感がずっと続く、濃厚な作りとなっています。設定もストーリーも地味ながら、心に絡み付く一作となりました。

でもなぜここで取り上げたか? じつはそこに、ミモレ世代にも関わってくるような夫婦の形、そこに生まれる男の嫉妬が描かれているから。
夫の突然の死は、自殺か、はたまた妻の仕業か、それを探る中で、ベストセラー作家と作家志望の夫婦の危い関係が、次第に浮き彫りにされていくのです。

 


嫉妬の中でも最も重く、深い闇のように出口が見つからないのが、実は才能への嫉妬だといいます。それが、夫から妻への感情であったとしたらどうでしょう。生きているのが苦しくなるほどの深刻さを生むのは避けられないのです。

ただこれが、もしも妻と夫の立場が逆転していたら、不思議にそんなことにはならないはずで、あくまでも女性の才能に対する男の嫉妬が非常に厄介なものであるということに気づかされます。